2017/12/02 20:03

肺の容積の85%を占め、成人一人当たりの総表面積が100平方メートルにも達する「肺胞」の機能は、静止している状態ではない事から、常に微弱な収縮と拡大を繰り返しているが、平均値は存在し、従ってこの平均値を最も安定した状態とするなら、周囲器官、気圧などにより平均値まで収縮へ向かう方が、拡大に向かう時よりエネルギーの消費が小さい。

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この事から人間の呼吸は吸っている時の方が吐いている時より多くのエネルギーを要する為、息を吸っている状態の時に微弱な振動を起こし、呼吸を止めた場合も同等のエネルギーが必要になる為、結果として細密な作業をしている時の人間の呼吸は、ゆっくり弱く呼吸を吐いている状態になっているが、これは太極拳の要諦にも同じである。

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つまり昔から細密な作業時には「息を殺して」とか「息を止めて」と言う事が言われていたが、これはまだ余裕が有る状態の事を言い、更にここ一番の集中が求められた時の人間の呼吸は「f分の1のゆらぎ」で有り、これは水が流れる音、英語のアルファベット中に存在する特定の文字出現確率に同じものと言う事が出来る。

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生物の運動は基本的に回転運動の組み合わせで有る事から、これがどんなに複雑になろうと回転運動の基本原則から逃れられず、人間の場合の手の動きでも初めと終わりには力が入り、これによって例えば物を置く最初の瞬間とそれを離す瞬簡に、僅かだが置こうとした物をずらしてしまう事になる。

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書の場合筆が紙に入る瞬間と、筆が紙を離れる瞬間に「迷い」が出るのはこの為で有り、これは紙と言う平面で有ればこそ「迷い」だが、その本質は「深さ」、「段差」である。

この状態で初めの段差を全く消滅せしむるには「流れ」、簡単に言うなら一本の必要する長さの線の1・5倍の長さから回転を合わせ線を引き、回転運動の最後は呼吸と組み合わせると緩和効果が出る。

つまり力が抜けた状態を利用して、筆が受ける振動を消す事が出来るのであり、この時に平均値まで吐く呼吸をしていればこれが可能となるものの、息を止めていれば筋肉の細かな微動が発生し、それは大まかには目に見えなくともシルエットに影響を及ぼす。

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しかも人間は意識して呼吸を止める事は出来ても、意識して呼吸を吐くことは難しく、ここで無理に呼吸を吐くと、その事に気を取られて「震え」を生じせしめる事から、吐く呼吸は無意識に近い状態で為される事を要とし、ここで必要な事はあらゆる無駄を排したプラスマイナス0の状態が求められるのである。

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従って全体の調和の中で体がその状態を作ってくれる環境と言うものが必要になる。

元々人間の体は神経伝達によって維持されていて、例えば好意を持つ異性に出会った時には、そうしなければと思わずとも心臓の鼓動が高鳴り、呼吸数が増えるのと同じように、その人間に危機的な状況が発生すると、それに体が連動してバックアップしてくれる仕組みなっている。

即ちその心が有れば体がそれを用意してくれるのであり、自分の最後にして最大の味方は自分の体なのだが、これに必要なことは「集中」で有り、極めた高い集中はあらゆる意味での分散に同じで、最もリラックスした状態のものと言う事が出来る。

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頭から湯気を出してカチャカチャ音を出して仕事をしている姿は、一見一生懸命仕事をしているように見えるかも知れないが、本当に仕事を捗らせるなら余分な力を使わず音を立てる事も無く、一切の無駄を省いた動きとなる事が必要であり、この場合はまるで眠ったように静かに、しかも無表情で仕事が為されて行くものだ。

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人間の口は意識や習慣が無いと微妙に開く構造になっていて、為に何かに夢中になっている時は少しだけ口が開き、ついでにまさにこの瞬間こそ呼吸を弱く吐いている。

それゆえ気が付かない間によだれを落としていたりするのだが、これがf分の1のゆらぎ呼吸の瞬間なのである。

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多くを語る者の言葉は虚しいのと同じ様に、無駄な動きの多い仕事はその本質から遠く、忙しそうにしている人間の為している事とは「求められるところ」から遠いところを動いているものだ・・・。

 

文責 浅 田  正 (詳細は本サイトABOUT記載概要を参照)