「漆は塗料」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2017/12/06 07:12

漆の価格は変動相場制であり、その価格決定の最大の要因は中国での生産状況や、やはり中国政府の政策に起因する。

こうした事情から過去、輪島などの漆器生産地では中国の漆生産に対し、日本政府から補助を受けて支援する制度が存在したが、その最大のものは中国での漆の木の大量植樹だった。

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しかし元々日本との関係が悪化すれば、日本人が乗る観光バスですら止まってしまうのが中国政府のやり方であり、こうした背景から日本の漆器産地が行った植樹などの善意や誠意は、全く関係なく当然の貢物くらいにしか考えられずに終わり、日本の漆器産地などに配慮などが為される事はなかった。

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これに対し日本国内の漆の生産は、浄法寺(岩手県)など一部の限られた地域でしか生産されず、為に中国産漆とは圧倒的な生産コスト差が存在する。

2013年7月現在の中国産生漆(漆の基本原液)の価格は1kg当たり10670円だが、これが日本産の生漆だと安いものでも1kgが70000円、平均相場は100000円前後である。

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実に10倍近い価格差が生じていて、こうした背景からその品質の高さは理解されていても日本産の漆は消費されず、デフレーション経済の中では更に原材料価格を抑制しなければならない漆器産地としては、益々日本産漆が使えない状態になっている。

日本が消費する漆の99%が中国産漆と言う現実はこのような事情に起因している。

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また漆器の需要が低迷する原因として、他工業塗料の品質向上が有り、例えばトヨタの最高級車の塗装に使われている日本ペイントなどが生産する塗料は1kgが50000円、70000円と言う単位のものが使われているが、そのどれもが強度、耐紫外線、耐塩基性に優れ、また表面硬度が高く、見た目の質感も漆を超えるクオリティを有している。

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すなわちこれが何を意味しているかと言えば、日本産漆と同じ原材料価格で有っても、その製品が優秀で有れば消費されると言う事であり、ここに漆は実質工業塗料の品質に追い越されてしまっている状況を認識する必要があり、こうした価値観の逆転から漆の価値観は伝統にのみ依存する傾向に有るが、これは間違いである。

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何かに対して劣るから、その劣ったものが必要ないと言う事ではない。

エアコンが有るから扇風機が必要なくなったか、或いは掃除機が有るから箒(ほうき)は無くなっただろうか・・・。

同じように1kg70000円の塗料で塗られた椀と、1kg10000円でも漆で塗られた椀ではどちらの手触りを選ぶだろうか・・・。

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漆器産業を初めとする伝統工芸の低迷の原因は、確かに消費者の価値観の変化と、文化社会の変化に有るが、その実伝統に依存し何等努力する事を怠り、他の工業技術に追い越されてしまった産地の体質にも原因があったのでは無いか、すなわちデフレーションが悪いのではなく、消費者が求めるものを作ってこなかった、自分の狭い箱の中でしか物事を考えてこなかった漆器産地の在り様にこそ、原因が有ったのでは無いだろうか。

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だとしたらこれからの伝統工芸の産地は自身の狭量な価値観の押し売りではなく、民衆の求めるものを作ると言う本来にして謙虚な姿勢こそが、その未来を明るくする道では無いか、そう私は思う。


文責 浅 田  正 (詳細は本サイトABOUT記載概要を参照)