2017/12/14 07:48

塗師小刀、塗師刀は現在では輪島塗の特殊な刀として位置づけられている。

しかしこの刀は本来日本のグローバルスタンダードだった。


今では滅多に表記される事は無いが、大正や昭和の文献の中に「丹波」と言う言葉が出てきて、このルビや但し書きに「塗師刀」と言う文字が出てくる。

この事から塗師刀の形状は一つの様式で有った事が伺え、その発祥は京都の丹波である。

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元々「丹波」は茶道具や竹細工、それに塗師などが使っていた小刀での様式で、刀のの先が斜めに折られた状態になっている、所謂小さな鉈(ナタ)状なのだが、これが輪島塗では先般説明しているように緩やかな円を描くようになって、刀身の長い部分が使われなくなった経緯には、削る木ヘラ材料の特殊性が大きく影響していた。

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日本古来の木ヘラは「ヒノキ」であり、これを削ったり竹を割ったりの細工には小さな鉈状の刀が重宝されたが、輪島の木ヘラは「アテ」と言うヒバ材の一種で、これはヒノキよりも粘り気が有り、木目の影響を受け易い事から、丹波様式の長い刀身が使われず、先の方だけが曲線に変化して使われるようになったものと思われる。

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従って塗師刀は輪島では塗師刀だが、本質的には「丹波」、若しくは「丹波様式」の派生形と言う事が出来、基本的な刃物の概念として、その形状の基礎部分は存在するが細部の形状は使う者によって微妙に変化して行く。

そしてこうした変化が著しく、かつ多様化して行くようになると、その地域だけで通用する形式名が発生し、やがて他での利用が衰退、或いは一部の地域がグローバルになった時、本来の形式名称を追い越してしまう場合が有り、この事は例えば英語とネガティブ英語の関係、言語のグローバリゼーション過程に同じ事が有る。

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輪島塗が全国展開、簡単に言うならグローバル化するに従って塗師刀もまたグローバル化し、そこでは塗師刀が単独の固有名詞のように考えられたり、また本来の形とは別のようなものに考えられるケースも発生するが、塗師刀は京都「丹波」の派生で有る事は間違いない。

だが問題はこうした歴史的な経緯を輪島の職人がどれだけ理解しているかと言う事になる。

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確かに輪島塗は日本の木工塗装技術の中では最高水準の技術の一つだが、これを余りにも大きく考えすぎてしまうと、その道具や地域の有り様にまで同じものを求めてしまい、為に本来の事実が蔑ろになり、それがその地域の歴史観になってしまう状態が起こり、やがてその地域の、輪島で言うなら輪島塗がグローバル化していくと、本来の事実が間違ったまま全国に伝播されるケースが出てくるのである。

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どの地域も人も自分が住んでいる地域の事を大切に思う気持ちは同じである。

そして自分の地域の事を思うなら、他の人の地域の事も同じように考える必要が出てくる。

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それゆえ私は少なくとも、塗師刀や塗師小刀は京都丹波様式の派生形で有る事を、全国レベルで表記するときは「丹波」と表記するよう伝えておきたいと思っている。


文責 浅 田  正 (詳細は本サイトABOUT記載概要を参照)