2017/12/22 07:08


「危険外来種」、若しくは「侵略的外来種」と言えば、日本では欧米から日本に入って来て日本の在来種を駆逐して行くイメージが有るが、この逆に日本の生物が海外の在来種を脅かすケースは意外と日本国内では知られていない。

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だが国際自然保護連合が侵略的外来種ワースト100(IUCN・2000)の中に指定している植物が日本にも存在している。

それが「イタドリ」(Fallopia Japonica)であり、最終的には3mにまで成長し、コンクリートやアスファルトを平気で割って生えてくるこの植物の繁殖能力と生命力は絶大で、一度生息が始まると撲滅は不可能な植物である。

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主に温帯地方に生殖するが、河川付近の水田の土手などで水田から漏れる肥料を吸収したイタドリは毎年群生し、少し背の低い竹林の様相を呈するようになり、周囲の植物は簡単に駆逐される。

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「イタドリ」は元々アジアに広く自生していた植物だが、これが侵略的外来種となっのは、1830年頃から観賞植物としてイギリスに渡って行った事から始まったもので、その破壊的な繁殖能力から200年の時を経て、イギリスでは危ない植物とされた訳である。

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しかし日本人と「イタドリ」の関係は必ずしも険悪なものではなかった。

簡易食物、或いは多く自生している為に持参しなくても食べられる携帯食料として、或いは惣菜の一品、利尿作用がある事から薬草としても重宝された大変なじみの深い植物である。

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食品や薬草以外にも、古くは「杖」としての需要も有り、乾燥させたイタドリの茎を適当な長さに切って使えば、軽くてどこかで忘れても気にならない簡易杖としては抜群の利便性が有ったが、例えば平安時代と現代人の高齢者の体重は26%ほど現代の高齢者が重く、明治時代と比較しても16%ほど重い。

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この事から安全性に関しては保障できないが、枯れたイタドリの杖などは何とも趣が感じられ、工芸としてもその筒状の形態から乾燥させ、節から節を切り取り、更にそれを縦に割って筆入れが作られていた時代が存在した。

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かなり昔になるが同様のものを作って貰えないかと言う依頼が有り、現物を拝見するとそのイタドリの筆入れには「朱合漆」(しゅあいうるし)、透明な漆が塗られていたが、大袈裟な硯箱(すずりばこ)とは違った野の風のような風情が感じられた。

携帯用の筆筒としても便利なものだった事だろう。

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太平記の時代に活躍した山伏達は筆と墨を携帯している事が多かったが、多様な筆筒が存在し、墨入れも色んなものが存在した。

現代で在ればさしずめ金魚形ビニールの醤油入れに墨汁を入れ、このイタドリの筆筒に筆を入れ、たまたま訪れたが留守の旧友に、近くに生えている蕗(ふき)の葉を手でなめし、この裏に「訪れたが留守だった、また来る」などと書を残したら、随分優雅な事だろう。

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ちなみに多くの植物の葉の表は水をはじくので墨が付かない。

手でなめして裏に書くと、何とか書ける場合が出てくるが、外で墨を移すときには植物の葉の表を使う。

小さな石を4つ囲むように並べ、その上に広めの植物の葉をなめして置き、上から中指と人差し指を添えて押してやると、簡易硯(すずり)が出来上がる。


文責 浅 田  正 (詳細は本サイトABOUT記載概要を参照)