2018/02/01 05:26

木は人間に良く似ている。

同じヒバ材の亜種「あすなろ」にしても、傾斜がなだらかで日当たりの良い場所に有る木は成長も早く、50年もすれば直径が50cmにもなるが、急な斜面の、土地のやせた所に有る木は成長が遅く、同じ50年経っても直径が30cmにも達しない。

しかし環境の良くない所で育った木はその密度が違い、同じ面積の同じ厚みの板でも持った時に間違いなく重い。

その木が辿ったこれまでの重さが違うのである。

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1965年以降発達してきた合板技術は、ラワン材を砕いて接着剤で固めたラワン合板から、こうした合板の裏表に丸太の皮を剥くようにスライス切断した薄い木目シートを張った、「シナ合板」へと変化して行ったが、こうした動きの中で輪島塗の素地もそれまでの国内産木材から、新しく改良されてきたシナ合板の素地が流行してくる。

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元々広い面積の板を国内産木材で調達する場合、その高額な事、割れ易く反りが出易い事から、例えば幅90cm、長さ150cmクラスのテーブル板などの素地形成は容易ではなかった。

幅27cm前後の板を何枚か横に接合し、その周囲を幅18cm前後の板で額縁状に囲み漆で接合し、それを削って一枚の板を形成していたのであり、これを1枚の天然木板で取ろうとするなら厚みが必要になり、不恰好で重くなるだけではなく材料代だけで数十万円にも及び、しかも一枚板は瓦状に反りが出るのである。

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こうした中で出現してきたシナ合板はその表面が滑らかな木目である事、加工が容易である事から、一挙に輪島塗の素地材料として浸透して行った。

テーブルなどはまず障子の組み桟のような構造体を作り、それを両側からシナ合板でサンドイッチのように圧締する事で、反りの出ない安価な素地形成が可能になったし、盆やお重などの底板などは、縁で合板が持つ対角線上の反りを抑えて製作するやり方が一般的になって行った。

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しかしラワン合板、シナ合板共にそれの接着に使われているものは「木工用工業ボンド」であり、この耐用年数は4年、耐温度条件は60度までである。

従ってこうした合板が用いられた輪島塗の耐用年数は4年から6年で、おそらく6年もすれば表面のスライスされた木目組織が剥離してくる状態になったと思われ、この場合板の部分に細かい下面層のヒビが透けて見える事になる。

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昭和30年代後半から平成に移行するまでの期間は、輪島塗が一つのピークを迎えた時期だが、惜しむらくはこの時期から現在に至るまでに製作されたお盆や、お重、テーブル、衝立、屏風などはその殆どが平面部分にシナ合板を使って製作されていて、これはどんな素晴らしい作品でも同じである。

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またこうしてシナ合板の素地が流行して行く時期に、一番遅くまで天然木のテーブルを使っていたのは旅館やホテルなどであり、ここでは合板素地のテーブルは非常に重くなる為、女中達が重さを嫌った事から限界まで薄く軽く作られた天然木のテーブルが重宝されたので有り、合板素地の切り替わり時期は、輪島塗に取って「実用」から「見かけの美しさ」に切り替わった時期とも言えるのかも知れない。

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そして現在は国民生活の様式が西洋化し、輪島塗のテーブル自体の需要が大きく減少、いやおそらくもう少しで輪島塗のテーブルと言うものが消滅するのかも知れない。