「DNA引き算」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2018/02/05 07:09

多くの遺伝子はそれが由来する親の影響は受けない。

従って遺伝子刷り込みを示すのは例外的なことだが、哺乳類の胎内では父親由来の遺伝子が、自分の子孫を残すために胎児の発育を促進させ、母親由来の遺伝子が体力の消耗を避けさせるため、胎児が大きくなり過ぎないように働いているとする説がある。

つまり同じ胎児の中で母親由来の刷り込み遺伝子と、父親由来の刷り込み遺伝子は競い合って、子の特定の遺伝子の発現を調整している側面を持っている。

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また人の胎児はその形成段階に措いて、端末の細かなディテールを構築する際、これらは積み上げ式で構成されず、引き算で構成される。

つまり胎児の手や足はその初期段階に措いて、しゃもじのような形をしていて指が分かれていないが、後期段階ではその指が分かれる部分に存在する細胞組織がプログラムに従って死滅し、それによって手や足の指が形成される。

更に運動神経の細胞、ここでもやはり端末が筋肉細胞に取り付いた部分が生き残り、その他の部分はやはりプログラムによって死滅して構成されていく。

つまり人間を構成する多くの構築プログラムは、大きなものから引き算によって構成されるものが多いのである。

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この傾向は何を意味しているか。

例えば全く同じ塩基配列DNAを持つ一卵性双生児、この場合でも一方が障害を持ち、もう一方は障害を持たずに生まれてくるケースがあるが、この場合はどちらか一方の子供に、障害となる配列が加わって障害を起こしているのかと言うとこれは違う。

一卵性双生児の場合は同じ塩基配列でしかないから、基本的に障害になる因子は初めから双子の双方に存在し、ではなぜ片方が障害を持たないのかと言うと、片方には障害となる因子を削る、または抑制する要因が加わっているためと考えられるのである。

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つまり障害因子は最初からありきで、それを抑制する、死滅させる力によって、片方の子供は障害から逃れていると考えられていて、ここでも基本的には引き算の考え方が相当してくるが、これは癌細胞などにも同じことが言えるかも知れない。


癌細胞はその状態から「増殖」と言うように、まるで何かが増えてくるようなイメージを持つが、実はこうした因子は人類が基本的に素質として初めから持っている可能性があり、通常は癌細胞を抑制する作用を持つ遺伝子の働きによって抑制されているが、この抑制作用を持つ遺伝子の働きを更に抑制する遺伝子の働きによって、癌細胞が発生する可能性も否定できるものではない。

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こうして見てみると、人間の持つ遺伝子の引き算的有り様は、そこから何故か遠くに「寿命」と言うものを想像させる部分があるが、癌にせよ障害にせよ、これが抑制される仕組みは、塩基にメチル基が結合するメチル化、DNAが存在する染色体の凝固などによって発現していると考えられている。

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そしてこうした寿命や細胞的なプログラム死に深く関与しているのが「テロメア」(端末小粒)と言うものだが、これは各染色体の端末にキャップのような形で存在していて、哺乳類の場合はTTAGGGの配列が数百回繰り返されている。

これが存在しないとどうなるかと言うと、染色体同士が無秩序に融合してしまうことから、テロメアは染色体の安定性を保つ役割を担っていると考えられる。

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しかしテロメアは細胞分裂を繰り返す度に短くなることが知られていて、それを再生しているのが「テロメラーゼ」と言う酵素であり、この酵素は生殖細胞では活性が高いが、やはり細胞が分裂、分化を繰り返すことによって減っていく。

そしてやがて摩滅したテロメアによって制御を失った染色体、つまり設計図は変調をきたしていくことから、基本的にこのテロメアと言う配列、テロメラーゼと言う酵素の働きが細胞の寿命、強いては生物の寿命に深く関与していると思わざるを得ないのである。

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人のDNA、この配列は一般的には相当な密度で情報が入っているように思われるかも知れない。

だが実は人のDNAで遺伝情報を担っているのは僅かに数パーセントに過ぎず、残りは遺伝上何の情報も持っておらず、これをジャンクDNAと言い、遺伝情報を持つ部分のDNAを「エキソン」、遺伝情報を持たない持たない部分を「イントロン」と言う。

このことからジャンクDNAと言えば、通常イントロンの部分を指すが、一般に進化した生物ほどこのジャンクDNAが多く、単純な生物ではジャンク部分が少ない。

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また細菌類に至ってはジャンクDNAが存在しない。

そして進化と関連して生物のDNA量を比較する場合、C値と言う比較方法が用いられるが、C値とは精子や卵子に含まれるDNA量、正確には半数の染色体が持つDNAの総量だが、これを比較する方法でその生物の進化の程度を測ることができるが、これは言わば、どれだけ多くのジャンクDNAがその生物に存在しているかの比較と言える。

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それ故こうしたジャンクDNAを多く持っている人類などは進化の過程を多く踏んでいるのでC値は高いが、このC値を取ってみると実はイモリやカエルなどは人類のC値より遥かに高い数値を示す。

つまりC値だけを見るならイモリやカエルは、人類よりも進化した生物と言うことになるのだが、これを矛盾と捉えた人類の研究者達は、この矛盾を称して「C値のパラドックス」と呼んだ。

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このように異常に高いC値を持つ生物のDNAはその殆どがジャンクDNAで、同じ塩基配列や良く似た塩基配列が反復して並んでいる部分が多く、従ってDNAの総量の多さが、必ずしも遺伝情報の多少に関係していないことを示しているが、こうしたジャンクDNAはその生物が進化する過程で、何らかの役割を担ってきたものと考えられることから、もしかしたら遺伝情報は少ないものの、進化の過程ではイモリやカエルの方が、人類よりもより多くの進化の過程を踏んでいるのかも知れない。

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イモリやカエルは人類よりも、より多くの過去を持っている可能性があるのである。

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最後に、女性が自分の子供を生めるようになるまでのその速さ、これは実は抑制されていないとどんどん早くなる傾向にあり、生殖腺刺激ホルモンや性ホルモンの分泌が、脊椎動物などでは脳の松果腺から分泌される「メラトニン」と言う物質で、抑制されることによって早熟にならないように調整されているが、このメラトニンは昼間光が当たるとその分泌が抑制され、主に夜間、暗い環境で活性化する。

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それゆえ、夜も明るい現代環境によって、女性が生まれてから自分が子供を生むことができるようになるまでの期間が、年々短くなって来ていると言われている・・・。