「粉と液体のイメージ」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2018/02/08 06:31

書道など筆を使う仕事をしている人、或いは筆を使う機会の多い人は理解できるかと思うが、筆には縦と横が有り、必ず筆先が揃わずに墨が太くなってしまう横部分と、すっきり墨が付いてくる縦部分で構成されていて、安価な筆はこの中でも縦の部分が少なく横の部分が多くなり、高級な筆になるほど縦と横の差が少なくなる。

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同じように漆もその感覚上の差異として「粉系」と「液系」が存在し、これは下地生漆でも上塗り漆でも塗った時の感触の違いとして現れ、どちらかと言うと塗った時に粉の感じがする漆の方が仕事は綺麗に仕上がる。

液体の漆に「液体」の感触は理解できるが、「粉」の感触とはおかしな事を言うと思われるかも知れないが、これは木ヘラや刷毛で漆を塗る際、その最後にヘラや刷毛が漆の表面から離れる時の感触を言い、「粉」を置いて行くように切れる漆は作業もし易ければ、仕上がりも木ヘラや刷毛の最後の斑(むら)が残りにくい。

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そしてこの液系と粉系は基本的に漆産地や季節によって左右されるのではなく、採取した漆の木によって違ってくる差異であり、液系の中にも粉系が存在し、粉系の中にもやはり液系が存在すると言う繊細なもので、輪島などの漆器産地で「漆の顔を見る」と表現される漆の感触とはまた別の、職人独特の感触である。

「漆の顔」とは乾燥していない液状の漆ならその乾燥速度と、表面張力による平面の均一性傾向の予想であり、これが乾燥している漆ならその表面光沢や、どれくらいの厚さに見えるかと言った事を指しているが、漆の液系と粉系は塗った時のイメージを表現したものだ。

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またこうして実際の作業ではとても効率が良い「粉系」の漆だが、一般的に日本産などウルシオールが多く含まれる良質な漆は「液系」が多くなり、従ってこうした液系の漆にどれほど作業効率の良い粉系の漆を調合するかによって、総合的な仕上がりが違ってくる。

良い材料だけを使えば良い仕事に成るとは限らないので有り、中国産漆でも日本産以上の漆は存在するし、日本産でもそれが採取して早い段階で使われるなら、非常にコントロールが難しくなり、良い効果は得られない。

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話は少しそれるが、フランスの車のオイルフィルターは紙製が多いが、これだとすぐにフィルターを交換する必要が出てきて、それによってエンジン性能を保護する効果を持たせているが、日本の車はこのフィルターを強靭な材料で作って有り、為にフィルターの交換はそう頻繁に行わなくても一定の性能が得られるようになっている。

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考え方の問題だが頻繁に交換して安全性能を得る方法と、出来るだけ完璧なものにして故障を少なくする方法では、その性能が万一ダメージを負った時の大きさが違ってくる。

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完全に近いものの万一の時のダメージは大きく、日本人はどちらかと言えば完全で有る事を求める。

良い材料を使っていれば安心かも知れないが、その良い材料はどこかに普通のものすらも不完全としてしまう性質を持ち、その事が全体のバランスを崩す。

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書は唯美しければ良いと言うものでは無い。

そこにその人なりが現れてこそ良い書であり、縦も横も使いこなしてこそ、初めて筆を使うと言う事なのだろうと思う・・・。