2018/02/27 21:22

木と木の接合と言う状況は「椀」や「盃」などの漆器ではその状況が少ない。

椀の球形の部分と高台(脚)の部分を別々に曳き、それを接合して得られる対費用効果は、これを同時に一つの木片から曳いた場合の強度的対費用効果に劣るからだが、「雑穀片口」(雑穀を入れておく口の付いた鉢)や直径30cmを超える大きな皿や盃の場合だと、本体と脚を別々に曳いて接合する時が有る。

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それゆえ漆器素地の接合と言う状況は「椀」等の丸いもの以外、もっぱら箱やお盆などの素地形成に措いて多用されるが、丸いものでも丸盆や小判型の弁当箱など、基本的に側面と底板が分離している状態のものは全て角形群として看做す事になり、素地接着には木工用ボンド、シアノン系接着剤、米糊、「こく惣漆」(こくそううるし)等が使われ、この中で一番強力な接着力はシアノン系接着剤である。

だがシアノン系接着剤はタイミングに弱い。

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一種の「気」のようなものかも知れないが、例えば昔から伝わる「鎌いたち」のような状態、或いは空手の瓦割りのようなもので、何かと何かが揃った状態には簡単に外れる。

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これに対して米糊と木工用ボンドはほぼ同じ強度で、シアノン系接着剤ほどの強度は無いが4年くらいの持続強度と、タイミング破損耐性強度が有り、これは米糊や木工用ボンドがシアノン系接着剤より「柔らかい」事に起因している。

つまり素地収縮に適合する「ゆとり」が有るのだが、硬度の有るシアノン系接着剤には「ゆとり」が無く、その分タイミングで外れてしまうので有る。

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また輪島塗の素地接着でもっとも信頼されている「こく惣漆」は、米糊10に対して漆を100%から150%加えて練り合わせ、そこへ「こく惣粉」(欅の粉末を焼成したもの)を1割から4割加えたものだが、この強度は水分がなくなるに連れ劣化する為、通常の強度は5年から10年となる。

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更にこの「こく惣漆」にはもう一つ蛋白質反応の漆が有り、この場合は漆と小麦粉を練り合わせたものを指すが、接着漆は乾燥したときの硬度が高く、素地加工に用いると刃物が全て刃こぼれを起こす事になるゆえ、一般的にこの漆が使われるのは割れた陶器補修の「金継ぎ」、上塗り用の刷毛を挿す(作る)時や、塗師小刀などの柄を挿す場合などに使われる。

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そしてこれらの事を総合すると、短期間で強力な接着力を得るならシアノン系接着剤が有効であり、4年から10年の中期間、有る程度の強度で持続接着を得るなら木工用ボンドや「こく惣漆」、接着力は比較的弱いが長期に渡って持続接着を得るなら米糊と言う事が出来るだろう。

尤も、素地接着はその接合構造による構造強度に起因するところが一番大きいが、こうした接合構造強度で一番強度の有る構造は「一升枡」(いっしょうます)などの角に用いられている「連続組み方ほぞ」で有り、この場合は接着剤を用いなくても必要強度が始めから得られている場合が有る。

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面白いものだが、接着強度が強くなると、タイミングと言う訳の分からないものに弱くなって、その結果接着期間が事実上短くなり、接着力が弱まるに従って持続接着力は長くなり、一升枡などでは接着剤すら必要とせず、いつまでも形を留めるので有る。

強度とは一体何なのだろうか・・・。