「輪島塗の工程」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2018/03/09 20:10

輪島塗の工程は135工程とも147工程とも言われるが、現実には20の工程を超えず、分割して行う工程も数える為に数が多くなっているだけ、言わば大げさに広げて申告された工程であり、その半分は研磨工程である。

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輪島塗は大別して下地(したじ)「研ぎ」(とぎ)「上塗り」(うわぬり)に区分されるが、下地の時は漆に米糊や砥の粉、それに珪藻土焼成粉末である「地の粉」(じのこ)が調合されたパテ状の半流動状態の漆が使われる為、例えば丸盆などでも平面を塗った場合、これが乾燥するまでそれに隣接する内縁や裏面などが塗れない。

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ちょうどコンクリートを施行した直後、そこへは誰も入れないのと同じで、下地漆の乾燥は早いときで4時間、冬季などでは14時間かかる事から、一箇所を塗ったらその当日は他の箇所を塗れない為、この一箇所ごとを1工程と換算した結果、135とも147とも言われる工程になったのである。

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基本的には「素地調整」「こく惣」(こくそう)、「着せもの」(きせもの・布補強)「着せもの削り」「きせものけずり)、「惣身」(そうみ)「一辺地」(いっぺんじ)「二辺地」(にへんじ)「三辺地」(さんべんじ)までが下地工程になり、ここまでの工程の全てに研磨調整作業が伴うが、ここでの研磨は「磨き」と言い、「研ぎ」との区分は水を使うか否かと言う点になる。

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つまり下地工程の研磨では水研ぎが無い訳で、研磨材は「荒砥石」(あらといし)や古くは「鮫皮」(さめがわ)や「木賊」(とくさ)等が用いられたが、「木賊」は茎にケイ酸が蓄積されて硬化している為に、古くから研磨材料として用いられていたものの、現在は殆ど乾性紙ヤスリ・ペーパーに添え木をしたもので研磨されている。

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そしてこうして下地が終わったものを水研ぎする工程が「研ぎ」の工程で有り、「地研ぎ」(じとぎ)「中塗り」(なかぬり)「こしらえもの」、「小中塗り」(こなかぬり)、「拭き上げ」(ふきあげ)までを指す事になるが、ここで出てくる「中塗り」や「小中塗り」は重要な工程だが、それほどの技術を必要としない。

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従って「中塗り」の工程は通常弟子がいれば弟子が塗り、下地職人が塗る場合も有れば、暇な時は上塗り職人が塗ったり、工場長である「筆頭」が塗ったりすると言うような工程で、特別に専門職を置く場合でも現役を引退した者、或いは発送業務専属の女性が塗っていると言った場合も有り、この「研ぎ」の次の工程が最後の工程で有る「上塗り」(うわぬり)になる訳で有る。

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輪島塗の工程は現実には14工程が基本工程になる。

しかしその14工程を行う為にはそれぞれに研磨や研ぎ調整が必要になり、漆からゴミを除去するために吉野紙を使って濾過したり、寒冷紗(かんれいしゃ)を塗り器物に張る為にそれを切断する作業等々、全く見えない作業や研磨して消えてしまったものに費やされる工程が圧倒的に多い。

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それ故に私などは見えないものによって輪島塗が為されていると思うのであり、実に全質量の10%しか光を発していない銀河「ダークマター」もまた然り、などと思ってしまうのである。

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最後に、研磨で世界最高水準の技術はカメラや望遠鏡などのレンズなどを研磨する技術がこれに相当し、総合的な塗装技術ではグランドピアノなどの塗装研磨仕上げが世界最高水準になると思う・・・。