「ほうこう糊」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2018/04/23 06:16

輪島塗の下地漆の調合の基本は「八分」であり、これは米糊10に対して漆が8の割合の事を指す。

そしてこの割合を基本に品物に応じて漆の分量を調整するが、一般的にこの割合より少ない漆の分量は漆とは呼ばず、その調合素材を名称として用いる。

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例えば椀や茶托などを塗る時、現在のような手回し轆轤(ろくろ)や圧力轆轤が存在しなかった時代、左手で回しながら塗っていた事から、椀のように高台が有るものはそこを持って回せたが、茶托などは持って回転させる事が出来なかった。

それゆえ直径2cm前後の竹を、長さ3cm前後に切って、これを茶托の裏に簡易接着し、この竹の部分を指でつまんで回転させ漆を塗ったのだが、こうした竹のように持つために付ける物を「くだ」と言い、下地で茶托などの裏に付ける「くだ」は「ほうこうくだ」と呼んだ。

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そしてこの「ほうこうくだ」を茶托などに簡易接着する為に、糊と漆が調合されたものが用いられたが、この際余りに漆の分量が多すぎると、後に外して裏を仕上げる事が困難になる事から、この場合の漆の調合は米糊10に対して漆が3から4で調合された。

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この漆の分量は「タイミング」に弱い。

つまり、一定の接着力を維持しながらも漆と糊の強度バランスがタイミング衝撃に弱い調合方法であり、これが後に「ほうこうくだ」を外すときコンッと叩くと簡単に外れる理由である。

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だがこうした調合を漆とは呼ばず、「ほうこう糊」と言う具合に「糊」としているのは、「道具」と「漆」を分けているからで、これが長じて漆でも最後は下に漆を付けずに呼称するようになり、同じ職人同志ならこれで技術的会話は成立した。

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今の時代はこうした事をする職人もいなくなったが、厳密に言えば例えばお盆なら板の部分と縁の部分、それに上縁の部分の漆強度は異なる。

一番最初の下地である「一辺地」でも、板の部分の漆の調合は「八分」だが、縁は糊10に対して漆が9の割合、つまり「九分」の漆が使われ、上縁は10対10、これを輪島では「はら」と呼ぶが、このように調合強度が違う。

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また布をかける場合でも、お重の漆は「八分」だが、椀は「九分」か「はら」の漆が使われ、一般的に椀の漆の調合はお重などの角が有るものより漆強度が強くなっていて、人によっては布をかける漆の分量を「はら」にしている場合も有るが、次につける一辺地の調合が「八分」で有る以上、上に付ける漆より高い強度を下に持って来た場合、剥離の危険性が高まる。

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ちなみに「ほうこうくだ」を使って作業する方式は現在の輪島塗では消滅した。

おそらく1998年前後に最後の古参職人が亡くなられて以降、この方式で椀や茶托を塗る者がいなくなったと思われるが、同様に「ほうこう糊」の調合方法も消滅した。

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今朝はこの事を記録しておく。