2018/04/27 05:15

 
 
 私がむかし知っていた人で、男性だが彼はハイヒールの収集をしていて、陳列棚を作って、そこには基本的には赤と黒のあらゆるハイヒールが片方ずつ並べられていたものだった。
それは見るからに危険な雰囲気で、これだけ見ればもしかしたら「変態」なのではと思えるものだが、彼には妻子もいて、家族公認の趣味となっていて、集めたハイヒールは全て妻を同伴し、彼女を通して買ったもので、彼には勿論社会的地位もあった。
 
 当時私はこうした趣味と言うものが全く理解できなかったが、それから後テレビで作曲家の三枝成彰氏が、やはりこのハイヒールフェチの話に及んだ際、「この感覚は自分にもある」と公言していたのを聞いて、なるほどと思ったものだ。
 
 このようにマニアと言うものはその対象がいかにあざとい物であれ、そこに一極集中された物質的対象が存在し、それが自身の内に価値を高めていく傾向にあるが、「おたく」は、実はこの逆の方向性を持っていて、アニメ、ゲーム、漫画などと言ったより虚構性の高いものを求めていく傾向と、更にはマニアが一極集中なのに対して、興味が複数に及び、そこにマニアのような決定的情念が見られないことだ。
 
 こうしたことから見えてくるのは、「おたく」と言う社会現象の根底に沈むものが、反社会や思想ではなく、世の中や社会が劣悪だと看做しているもの、価値がないと看做しているもの、または幼稚、稚拙としているものにより高い指向性を持っている、いやこうした指向性そのものが「おたく」と言うものかも知れないが、そうしたもののように思える。
 
 従って「おたく」としたものは、世の中や社会ではどちらかと言えば欠落したもの、幼稚なものを指向していくことから、おのずとそこに社会性などは無いように見えてしまうのであり、一般的に人間は実体を持つものに評価を与えやすいが、実態の無い虚構にはなかなか価値を見つけにくく、それ故「形あるもの」は常に形の無いものより上位にあるように考えがちだが、より虚構性の高いマイナーへと移動していく「おたく」は、これに相反してよりバーチャルな方向へと動いていく。
 
 更にマニアのように一極に集約された物質に対する情念を持たない「おたく」は、何か特定のものに執着することが無く、基本的には社会的により価値の無いもの、マイナーなものへと移行していく傾向そのものであるとすれば、そこにある対象は有って無きようなもので、凡そ全ての分野へとその対象が存在していく可能性を秘めていることから、社会的な部分がそれを予測する、つまり評論家や学識経験者では全く予測も付かない新しい価値観を発生させていくのである。
 
 1980年代後半からその言葉が聞かれるようになって行った「おたく」、その背景には金、金のバブル期の親達が、バブル崩壊の時に見せたあらゆる価値観の崩壊に対して、子供達がその代わりになる価値観を探そうとして行き着いた、価値反転の競合が根底にあり、しかもこうした傾向は自信を失った人間には比較的起こりやすい傾向だった。
 
 そして長びく不景気と国際社会の急激な変化、そうした中で生きる我々日本人は、今やこの価値反転の競合を不自然なものとは思わなくなりつつある、つまりより劣悪なものを探していく傾向は、「おたく」と言う存在が社会的認知度を高めるに従って日本文化として成立したことを意味し、なおかつ今の段階では日本の新しい価値観でもある事を示しているのである。
 
 日本文化は古くから海外より輸入された文化を正当な流れとする文化的傾向を持っている。
それ故こうした海外の文化は日本で多様な、そして独特の展開を果たし、日本国内では亜流、低俗なものと看做されてきた文化が海外、ことに欧米で価値を見出され、それがまた日本に逆輸入される傾向が繰り返されてきた。
 
 古くは黄金の国ジパング伝説がそうだろう、またポスターのようなものが評価された「写楽」や「歌麿」がそうだろう、明治の日本ブームもそうだ、そして今は「おたく」がそうしたものとなっているのである。
 
 映画や音楽、伝統芸能は文化と認められても漫画、アニメ、ゲームなどは到底文化とは認められなかった日本社会、「おたく」と言うものが社会性から離れていくことが特性だったことから、常に劣悪なものとの評価しかなかったが、この日本で劣悪だとされてきたマイナー文化が、現在日本が誇る日本発の文化として海外に認められている現実は、それまで否定的だったあらゆる大人たちの価値観を反転させ、動きの遅い政府までも、動かざるを得ない状況に追い込む力があったことを認識しなければならない。
 
 そして日本が誇る「おたく文化」だが、海外で圧倒的人気のある漫画、アニメキャラクター、ゲームキャラクターブームは、基本的に価値反転の競合と言う流れを示しているものであり、これは社会的にも個人的にも「破綻」か、それに近い状態、もしくは行き場を失ったときに現れやすい傾向であること、その発信が日本であり、そして世界的流行を見せていると言うことは何を意味しているか、今、「おたく文化」が流行している国々では何が起こっているか、それはもう私が説明するまでも無いだろう・・・。
 
 ちなみに私はエヴァンゲリオンでは、「綾波レイ」のファンだった・・・。