2018/05/16 05:07

良い企画やイベントと言うものは、その当日時の朝には終わっているものだ。

準備が万全であるものは、その準備をした者にとって準備が終わった時点で全てが終わっていて、当日の成功は既に過去のものとなっているはずである。


輪島塗の製作に措いても下からしっかり製作に力を入れたものは、完成した時点でそれが過去になっているもので有り、その時点で次の仕事や作品の事に思いが馳せているものかも知れない。

従ってここで完成されたものに留まっている者の品はどこかで「小さい」。

どんな仕事も一番下が危ういと、それは上に行って挽回ができない。


それゆえ輪島塗の製作に措いては地味では有るが、素地の段階が一番重要になり、ここで時間や自分の都合に追われ適当な事になった物は、最後になって素地強度の不安と言う決定的な事態を迎える事になる。


素地は椀などの「曳きもの」では歪みと「陥ち」(おち)を警戒しなければならないが、これには素地材料の乾燥と、木に腐りが入っていないかを確かめておく必要が出てくる。


木材乾燥で最も効果的な乾燥方法は、意外かも知れないが水分を吸わせて吐かせる動作を繰り返す事であり、例えば一年間泥水の中に浸し、次の一年間を日陰で乾燥させ、また1年泥水に浸す事を繰り返し、これを3回ほど続けると、その木材は完全に乾燥して歪みが無くなる。


この原理は「珪化木」(けいかぼく・化石化した木材)とは別の組成だが、それに近い。

ただ、これだと木材の乾燥だけで5年、6年と言う時間を要する事になり、一般的には煙で半年以上燻して乾燥する「燻蒸乾燥」(くんじょうかんそう)の方式が持ちいられ、これでもほぼ90%の乾燥を得る事が出来る。


また素地材料になる木の腐りだが、これは素地選択時に判断するしかない。

しかし注意しなければならないのは台風や強風に曝された木で有り、この場合木が強風で限界を超えてしなった際、木の組成が破壊されたにも拘らず、そのまま成長を続ける事が有り、こうした木は外からは解らないが、木材に加工したとき鱗が剥がれるように細かい組織破壊が起こってくる。

素地材料の選択ではその木材が近年強風に曝されていないかを調べておく、つまりは産出地域を調べておく周到さも必要な事だ。


そして椀以外の素地でもこれは同じ事が言え、シナ合板などを使用する場合でも、基本的にシナ合板は木を大根の桂剥き(かつらむき)状態にして張り合わせ、その上から表面研磨が為されている為、表面は薄い木粉に覆われ、それを静電気と弱い油性が固めた蝋状態になっている事から、綺麗に見えて実は塗装をはじき易い傾向を持ち、合板は必ず対角線上に歪むと言う事を認識しておく必要が有る。