2018/05/22 05:29

出逢ったときは松坂桃李か福士蒼汰か、輝く瞳に精悍な顔つきだった亭主も、気が付けばグレーのスーツにヨレヨレ具合が妙に板に付き、メタボなシルエットにすっかりクールビズな頭頂部、さてさてこんな亭主だが、今夜は何を食べさせようか、健康を考えればあっさりしたものをとも思うが、それでは部活から帰ってくる子供達のスタミナが心配だ・・・。
全く食事を作ることほど悩ましいものは無いのが、一家の食事を預かる女性達の声と言うものだろう。
 
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そしてこうした傾向を如実に繁栄しているのがスーパーの棚割り、つまりどこに何を並べるかと言う作戦だが、ここに賭けるスーパーの並々ならぬ意気込みに、今夜のおかずに悩む女性達の横顔が見え隠れしている。
実はスーパーやデパ地下へ買い物に来る人で、どこのメーカーの何が欲しいかを決めて買い物に来ている人、例えば今夜はスパゲッティで、メーカーは○○の物を買うことが決まっている人は、買い物客全体の僅か9%に過ぎず、またどこのメーカーにするかは決めていないが、スパゲッティを買うことを決めている人は13%ぐらいだ。
 
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即ち買うものが決まって買い物に来ている人は全体の20%しかなく、凡そ75%の買い物客は、何を買うかすら決まっていない状態で買い物に来ているのである。
これは例えば欧米などと比べると、かなり買うものを決めていない客の比率が高くなっているが、日本の食卓事情、つまり生鮮魚介類の消費がある為、こうした消費選択の比率が他の消費選択比率を不確定にしている背景がある。
 
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従ってスーパーなどでは75%の人が何を買うか決めていないが、何かは買う訳だから、ここで自店が売りたいもの、また利益を上げたいものを、棚の陳列や値札の工夫などによって売り込むこもうと、スーパーは必死になる訳であり、ここで出てきた75%と言う数字、これを「店頭決定率」と言う。
 
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またどんな店舗でも沢山売れるものは多く仕入れて、多く棚に並べるが、そうでないものは少ししか仕入れず、しかも棚の陳列も端っこに数個が並ぶだけになる。
この余り売れなくて仕入れも少ない商品、これは一般に「ロング・テール」と呼ばれるもので、ちょうど恐竜の尻尾を考えて頂くと良いかも知れないが、店舗ではヒット商品となるものは数が少なくて、売れないけど用意されている物の数が圧倒的に多くなり、これをグラフに表示すると恐竜の尻尾のような形状を示すことから、こうした数の少ない商品のことをロング・テールと総称し、従来だとこれは非効率な商品とされてきた。
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しかし近年発達してきたネット社会は、こうしたロングテールの特殊性、また例えば日本に10人しか必要としないようなものまでを検索することが可能となり、より消費者の特殊事情に合致する商品の消費が発生してくるとともに、こうした特殊性に価値を見出す傾向も現れてくる。
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本質的な価値は問わず、その数の少ないこと、また極めて特殊なことを価値と考える傾向は、「おたく文化」の価値反転性の競合とまさしく同じものだが、旅行などで日本人が余り行かない所へのツアーなどに人気が出るのはこうした傾向の現れであり、比較的富裕層向けの商品として、従来は敬遠されがちだった、こうしたロング・テール商品に対する見直しが始まって来ている。
 
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更に「イノベーション」、これは日本語に訳すると平板な意味では「革新」とでも呼ぶべきか、つまり社会に何らかの変化をもたらすような「物」を考えた場合、実は非常に厳しい現実がここに横たわっている。
メーカーが作る新製品の市場での成功率、即ちここでは開発や営業に要した投資を回収できたことをして、成功だったと呼ぶにしても、その成功率は近年急速に落ち込んできている。
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これは世界的な傾向ではあるが、複数の研究機関の統計を総合して見ると、メーカーが出した新製品の成功率は、せいぜい24%から26%程度に留まっていて、これはつまり、いろんなメーカーの出した新製品で、何とか採算が取れたものは平均25%しかなかったと言うことであり、4つ新製品を出しても、市場がそれをかろうじて受け入れるのは、その内たった1個だけだと言うことだ。
 
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これに関してマサチューセッツ工科大学、E・ヒッペル教授はその著書「民主化するイノベーション」の中でこう述べている。
実は新しいイノベーション(革新)はリードユーザーと言う顧客の中で起こってきていることが多く、彼らはまさにソリューション(問題解決)の真っ只中にいて、メーカーの開発能力を超えて、自由なイノベーションを実現している。
それ故メーカーは、自分だけがイノベーションの主役であると言う考え方を変革して、リードユーザーとの連携によってチャンスを拡大することを考えなければならない。
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さすがにアメリカの大学教授だけあって横文字が多いが、これは簡単に言うと、もうメーカーよりも消費者の方が感性的にも、流行的にも、機能考察能力的にも上に行っていることから、メーカーが独自で考えたものは時代遅れや錯誤にしかならないことが多くなる。
だからメーカーは消費者と協力して、彼らの意見を取り入れながら商品開発をしないと、新商品はこれから更に成功率が低くなる・・・、と言っているのである。
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そしてこれは広告に関して・・・、ダイレクトメールでのレスポンス、つまり「反応」だが、実は僅か0・1%にも及ばない。
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近年のそれはEメールなどの非文書化メールだが、これらに拠って商品購入を行う消費者は、現実には皆無に近い。
殆どのメールは無視されるか削除されていて、その効率は文書に拠るダイレクトメールより更に効率が悪い。