2018/07/20 05:51



今年は早くからツバメがやってきて、その数も大変なものだった。
凡そ15組ものツバメ夫婦が2度卵を孵し、中には3度もヒナを育てた者たちもいたようで、おそらく今年だけで家から200羽のツバメが巣立って行く事になったのではないかと思う。
 
そして今は最後の巣に5羽のヒナがいて、親鳥が一生懸命餌を運んでいるが、このヒナが飛び立てば私の夏も終わる。
だがきっと今年の夏の暑さはツバメたちに取っても結構堪えたのでは無いか、普通なら巣立って1週間ほどすれば家に帰ってくることはないが、どうも昼の暑さを避けているようで、日中は沢山のツバメが建物の中を遠慮なくバタバタと飛んでいる。
 
また少し山の近くに有る畑へ出かけると、こちらには空を数え切れない程のオニヤンマが飛んでいて、私の姿を見かけると「誰が来たんだろう」と言うような顔をして近付いてくる。
 
午前4時39分、まだ明けやらぬ道に自転車をこぐ私は、今日こそはスズメバチの巣を退治しようと、強力噴射殺虫剤を手に水利ポンプ小屋へ急ぐが、少し先の道に何やら黒い塊が転がっていた。
「さては狸が車に轢かれたか・・・」と思い近づいて見ると、それはいつも家に来て狼藉を働いていた隣家の猫だった。
 
頭から血を流し、内臓が少し露出した姿で既に事切れていたが、「馬鹿だな、死んでしまったのか・・・」と声をかけた私は、その硬くなってしまっている亡骸を道の端に寄せ、明るくなって活動し始めたらどうにも手が付けられなくなってしまうスズメバチ退治に急いだ。
 
先日田んぼに水を当てようとして、うかつにもポンプ小屋に近づいた私は、その木の壁の穴の中にスズメバチが巣をかけている事を見落とし、見事に首を刺されてしまった。
それで以後水を見に行く度に蜂に刺されていたのでは辛い事から、蜂専用の殺虫剤を買ってきて退治しようと言う事になったのだが、如何せん、僅かに薄明るくなった巣穴の付近には既に2、3匹のスズメバチが出て来ていた。
 
仕方なく少し離れたところから巣穴に向け殺虫剤をかけたが、おそらくこのような事で蜂が巣を諦める事は有るまい、明日こそはもう少し早く来て、巣穴に直接殺虫剤を噴射してやると心に誓い、また自転車で猫の所に戻った。
 
家の猫はいじめる、餌は横取りする、暑いのであちこち開けてある窓や戸から侵入し、食べられそうなものは全て食い散らかして行くギャング猫だったが、そうした事を咎めもしない私の顔を見て、僅かに「しまった」と言うような表情をする猫だった。
隣家の高齢者夫婦は2人とも足が悪く、特に当主は数日前に病院から退院してきたばかりだ、きっと飼い猫を葬ってやることもできまい、いやそもそも隣家には10匹以上の猫がいるから、こいつが死んだくらいの事では気がつかないかも知れない。
 
「どこまでも手間をかけさせやがって・・・」
私は家に帰って新聞紙を持ってくると、それで猫をくるみ、自転車の前カゴに乗せて家に戻った。
そして川辺の土手に埋め、少し大きめの石を置き、畑に数本だけ残っていたグラジオラスを供えた。
 
やがて完全に太陽が登った午前6時30分頃、サトイモに水をかけていたら隣家の当主の姿が見えたので、先程の顛末を話して聞かせると、意外にもどこかでそれで良かったと言うような話だった。
隣家でも他の猫をいじめ、やはり狼藉ざんまいだったようで、くだんの猫はどちらかと言えば嫌われていたようだった。
 
「おまえ、誰にも悲しまれずに死んで行ったのか・・・」
私はいつも見つかると「しまった」と言うような顔をしていた猫を思い出した。
「馬鹿だな、本当に手間をかけさせやがって」
「仕方ないから、俺だけでも悲しんでやるよ、だが特別だぞ・・・」
 
さっき作ったばかりの猫の墓の前で、そう心の中で呟いた私の前を沢山の子ツバメたちが舞い、スズメバチがアブが横切り、オニヤンマも赤とんぼもスイスイ泳ぐように飛んで行った。