「大切なオペラは使い捨て」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2018/07/30 05:29

ドレミと言う音階、この音階を決定する標準音、つまり元になる音だが、これはフランス音名「ラ」、ドイツ音名A「アー」の周波数となっているが、こうした標準音はいわゆるバロック期以前は非常に曖昧なものであり、地方によってその基準はバラバラの状態だった。
例えばフランスでは390ヘルツ、ドイツでは410~415ヘルツとなっていて、現在の音階よりはかなり低い音階で楽曲が演奏されていたようだ。


だがこうしたことでは地方によって同じ楽曲でも、もし半音階低く演奏されてしまうと全く違った曲調になったり、移動して演奏が行われるようになると支障が現れてきたことから、1939年標準音の基準音が定められた。
それによると気温20度の状態で場所はロンドン、そこで440ヘルツの音を基準音とすることが決められ、以後はこの440ヘルツを基準音として音階が構成されるようになる。


しかし近年、古典と呼ばれる楽曲の演奏には、やはりその当時の音階でなければ作曲者の意図が伝わらないのでは無いか・・・と言う考え方から、その時代の楽曲が作られた地域の音階を用いて演奏すると言う演奏形態も増えてきている。
この場合、例えば古い時期のフランスの音階だと、基準音より半音低い標準音が用いられ、その演奏は基準音の音階とは全く違ったイメージになる。


そしてこうした世界的な標準音が決められて以降、ではこのような標準音が守られているのかと言うと、これが実は違う。
標準音が決められた以降も世界の基準周波数は年々上がり続けており、近年のレコーディングスタジオでは、ピアノのA音を441~442ヘルツに調律し、それに合わせて他の楽器の音階も決めていくのが普通になっている。
また最近では445ヘルツを基準にしているオーケストラもあるようだ。


周波数が高くなればそれだけ音は繊細で鋭角的になる。つまり聞く側にはクリアな印象があるが、その代わり穏やかさを失うと言う欠点もある。
音楽も、忙しくストレスの多い現代社会には、その時代が求める音階へと自然に移行しているのであり、これから先も多分こうした標準音の基準値は上がり続けるのでは無いだろうか。


また音楽の話のついでにもう1つ。
16世紀にイタリアで生まれたオペラだが、始めは貴族社会の最もポピュラーな娯楽として生まれたオペラも、その後台頭してきた市民階級の登場によりさらに広い需要が発生してくると、現代のアニメのように次々と書かれては上演し、それはそれで素晴しいことなのだが、いわば使い捨て状態となって行った。


再演されることもなく、日々大量に書かれるオペラの楽譜は出版されることは稀で、劇場に売り渡される自筆譜や写譜も殆どが上演の後は棄てられるか、紛失するケースが多かったようであり、こうしたことから今日我々が知るオペラの数よりも、実際は桁外れの数のオペラが存在していたと見られていて、実数は不明ではあるが、統計学的に見ると最大72000作以上のオペラが上演されたのでは無いか・・・と考えられるのである。


つまりオペラは書かれては棄てられを繰り返し、その殆どが失われていったと言うことだが、こうした状況は19世紀以降、出版の定着とともにある程度解消されていくが、例えば19世紀だけでも10000作以上書かれたイタリア・オペラ、このうち現代社会で曲りなりにも上演できているオペラは100以下しかない。
我々は結局のところ、オペラを見ているようで、実はそれはのぞき穴からやっと見える程度のものを、チラッと見ているに過ぎないのである。


では今夜はこれまで・・・、と思ったが、最後に忘れていたことがあった。
ちなみに赤ちゃんが生まれて最初に発する声、産声(うぶごえ)だが、この声は440ヘルツの「ラ」の音だとも言われている。