「ラプラスの悪魔」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2018/09/29 05:56

フランスの数学者「ピエール・シモン・ラプラス」(Pierre-Simon-Laplace 1749-1827)はこの宇宙の森羅万象にある種の「運命」が存在することを説いた。
 
即ち特定の数値が分かればその結果は決定しているとしたのであり、この説によれば、例えば私たちが2個のサイコロを振ったとき、どの位置でサイコロを持ったか、どれほどの角度で如何なる速度でそれがテーブルに投げられたかによって、出てくるサイコロの目がいくつになるのかは、正確に予測する事が可能だと言ったのであり、だがしかし現実世界に措いて常に未来が予測できないのは、原因となる数値が正確に出せないからだとした。
 
ところが後年、量子力学の分野で素粒子研究が始まってくると、宇宙から降り注ぐニュートリノなどの素粒子の中には、見ただけで弾き飛ばされてしまう素粒子などが発見され、これによって少なくとも物理学の世界では全ての因果律の「因」は不確定であることが分かったのであり、「因」が不確定ならば「果」も間違いなく不確定であり、このことから「未来は分からない」、つまりは森羅万象の不確定性が分かったのである。
 
そしてこうした背景から現代社会のデータと言うものを考えてみると、そこには大変奇妙な現象が起こっていることが判る。
いわゆるシュミレーションによる解析だが、ラプラスですら原因となる全ての事象を現時点で捉えることは難しいとし、後年の量子力学分野が不確定性を唱えたにも拘らず、現代日本のデータの汎用化に際しては、シュミレーションを基にした判断が増えてきている点である。
 
日本海溝地震(気象庁呼称・東日本大地震)以降、津波対策に措ける防波堤、防潮堤、津波防護堤などの建設計画には必ずと言って良いほど、シュミレーション結果を参考にしてと言う言葉が踊るが、このシュミレーションに使われたデータと言うものが全く発表されず、国民はただシュミレーション画像や専門家と称する者の予想をして、それで判断を余儀なくされている傾向は、大変危惧すべき事態だと思わざるを得ない。
 
人間の感覚の中で最大の効力を発揮するのが「視覚」であり、この視覚に訴える情報は例えそれが間違いであっても、他の聴覚や触感などより遥かに強力な影響を及ぼし、それによって決定的な印象を与えてしまうが、冒頭の話にも出てくるように、この世界の未来は常に不確定であり、それ以前にあらゆる意味で未来を予測するに足る、現在と言う時間軸での「因」を知ることすら不可能なことなのである。
 
にも拘らず平気でシュミレーション結果から、防潮堤の高さは15mで大丈夫だと判断しましたと言うその感覚が私には理解できず、シュミレーション画像など現代流行の3D映画より遥かに劣悪なもので視覚に訴え、それで確定的な事を言い、納得してしまっている社会に大きな危険性を感じる。
 
1993年頃、伊豆東海群発地震が発生したおり、国民的な地震予知に対する期待は大きく膨らみ、為に気象庁の主に地震部門を担当していた「地震火山予知連絡会」には連日伊豆東海群発地震の原因と、その予知に関しての問い合わせが殺到し、こうした傾向はついに国会でも取り上げられる事となった。
 
だが事実上地震のことなど何も判らない国会や政府はこうした国民の要望、期待を全て気象庁の地震火山予知連絡会に丸投げし、この回答に窮した地震火山予知連絡会は、ついに「現代の科学では地震の予知は不可能」と言う、自らの組織の存在意義を否定する回答をせざるを得なくなり、ここにその存在意義は完全に失われ、国民は失望した経緯があった。
 
その後1955年からは東海地方の観測態勢が強化され、地震予知よりも発生した地震を早く察知する方向へと方針転換が図られ、こうした流れから相対的に力を失った地震火山予知連絡会は片隅に追いやられ、変わって政府の「中央防災会議」や「火山噴火予知連絡会」、「地質調査委員会」などが台頭してくるが、このような一連の流れの中に現代の「緊急地震速報」がある。
 
この仕組みは地震発生時に起こる「震動波」の特性を利用したものであり、地震の波は大体4つの波を持っていて、その一番最初には初期微動と言う、人間には感じないほどの微弱な波から地震は始まって行き、この波は科学用語で「P波」と呼ばれる。
 
そして本震動、つまり実際地面が大きく揺れる震動は「S波」と呼ばれるが、P波とS波はほぼ同時に発生しながら、その伝達速度に違いが有り、P波はS波よりも約1・7倍早く地面を伝わって行くことから、このP波を捉えて本震動、S波の到達を知らせる仕組みが「緊急地震速報」の仕組みとなっている。
 

その為日本全国にこのP波を捉える観測機械が設置されているが、こうした観測機械の精度はともかく、気象庁の地震判定マニュアル、コンピューターの判定アルゴリズムは、常に50%の確率の反対側を捉える傾向にある。