2018/10/15 05:44

水を容器に入れた場合、その液体内部の分子は全ての方向から引力作用を受けるが、液体の表面近くの引力作用は液体の内部に限られる。
このことから液体には表面積を小さくしようとする力、即ち「表面張力」が生じるが、水の表面張力は他の液体のそれと比較すると格段に大きい。
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それゆえ細い管などでは地球の重力より表面張力の方が大きくなり、重力に逆らって上昇運動を発生させるが、これを「毛細管現象」と言い、実はこうした水の作用が存在して始めて、地表より遥かに高さのある植物の先端まで水分が送られたり、或いは血圧が低い状態の動物の毛細血管まで、しっかり血液が送られたりしているのである。
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液体の中では地球上で最も大量に存在する水、実に人体の60%、新生児ではその80%が水であり、これをして人体を表現するなら「水ユニット」とも言うべきものかも知れない。
従ってこれほどに重要かつ特殊な液体にも関わらず、その量の多さ、または余りに深い生物との関連性によって「有って当たり前」のように思われているが、一方でこれほど特殊な液体は地球上に存在してないほど、特殊な液体であり、言うならば水は「奇跡の液体」なのである。
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水を構成する原子は水素原子と酸素原子だが、水素原子は陽性の強い原子であり、酸素原子は陰性の強い原子で、これが共有結合した両原子の電気陰性度の差が大きな分子であり、このことから水は強い「極性分子」となっている。
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電気的に陽性な水素原子は、一方の水分子である酸素原子の非共有電子対の方向に近づき静電的な結合を作るが、このような水素原子を媒介とした分子間結合を「水素結合」と言い、従って水が同属の水素化合物に比して非常に高い融点、沸点であるのは、水分子同士を分離するためには「ファンデルワールス力」より強い水素結合を断ち切らねばならないからだ。
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ちなみに「ファンデルワールス力」とは原子や分子の間に働く「凝縮する力」の事だが、そのエネルギーは距離の6乗に反比例する弱いものとは言え、何も無いところからすると、この力は絶大な力を持っている。
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また水以外の物質では固体が液体の密度を上回り、その密度は温度が上昇するに従って減少していくが、水は固体の状態である「氷」の時の方が、液体の状態の時より密度が小さく、水の密度が最も大きくなるのは4°Cの時であり、これは極めて特殊なことである。
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このことが何を意味しているかと言うと、氷は水に浮くと言うことであり、冬季間に温度が下降すると、水はまず表面から氷になっていき、密度の高い4°C付近の水が底部へと沈んでいく。
この時上層部と下層部で水が攪拌され、下層部の栄養素が上層部に供給される事で、水中生物の生存が保持されている。
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さらに氷の構造は隙間が多く、そのため氷には中に多くの空気が閉じ込められ、これによって氷の熱伝導率は低く抑えられることから、氷の下に有る水の温度を急激に低下させることがない。
ゆえ、一定の深さが有る池や湖であれば、かなり低温状態でもそこに生物の生息を許容する環境が存在するのである。
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そして水の水素結合は、先に述べたように「ファンデルワールス力」を凌駕する強力なものであり、融解によって氷が溶けてしまっても85%前後の水素結合が残存し、氷から液体となってしまった水の中でも、部分的な氷の構造「クラスター」が残っていて、こうした構造は水分子の熱運動により、絶えず構成されたり破壊されたりしている。
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液体の状態の水はその温度上昇にともない、クラスター構造を壊しながらやがて沸点を迎えるが、水の水素結合が完全破断するのは、水が気体である「水蒸気」になった時であり、従って沸騰していても液体の状態にあるものは水素結合の75%を保持している。
簡単に言えば、水は他の液体と違って水素結合を切断しながら温度上昇をしなければならないことから、他の液体よりは格段に大きな「比熱」を持っていると言うことであり、この意味するところは生物の基本構造に繋がっている。
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人類は実にその成分の60%が水で構成されていて、しかも「比熱」が大きいと言う事は、如何なる意味か。
多量の水分で構成されている生物に取って、比熱が大きいと言う事は、外界の急激な温度変化による影響を受けにくいと言うことであり、温度が上昇した時、水は融解熱、蒸発熱を吸収して温度を下げ、反対に温度が低下したときには凝固熱、凝縮熱を放出して周囲の温度を上昇させる働きをしている。
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つまり水はただ生物の基本構成因子であるだけでは無く、そのままで有れば荒ぶる惑星である「地球」の急激な温度変化を抑制し、平均値付近から状況を大きく変動させない「安定」をもたらしているのである。
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人類が地球を構成している因子かどうかは分からない。
しかし水は間違いなくこの地球を構成している「因子」であり、従って生物に都合良く水が存在しているのではない。
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生物は実は水の一つの「形」なのである。