2018/11/29 11:58


漆芸技術下地の古典的様式は「生漆(きうるし)重ね塗り」ですが、これだと高価な材料を沢山使う事から、後に柿渋(かきしぶ)下地や珪藻土、或いは粉末混入下地が発生してきます。

これらの下地は確かに成型を容易にして製品精度を上げる事にはなりますが、生漆と言う最高強度を希釈する側面を持ちます。

 

1954年以降、東京国立博物館工芸課長、漆工漆長などを歴任された「荒川浩和」氏が当時でもその著書の中で「せめて生漆くらい塗ってくれたら」と嘆いておられた時代から既に半世紀が過ぎ去った現在、表面的な美しさを求める余り砥粉(とのこ)は益々多用され、その強度はどんどん低下して来ている漆器に鑑み、夏未夕漆綾では2008年頃から古典様式下地を取り入れた製品を作って来ました。

 

そしてその過程で粉末添加剤(輪島地の粉)と生漆のみで糊や砥粉を使わずに表面硬度を上げる技法を研究して来ました。

この工法の一部は1930年から1947年くらいまで日本に存在しましたが、西暦201810月現在、同工法で製作される漆器は世界中に1つも存在しない事、また1930年代の技法に90%以上の改変が加えられている事から、夏未夕漆綾では所在地である「保勘平」(ほうかんひら)の地名を由来とする「保勘平様式」として技術確定させて頂きました。

 

工法の詳細は公開出来ませんが、たわしなどで普通の陶器と同じように扱って頂いても全く影響の無い表面硬度、更には硬い中にも独特の柔らかさを感じる手触りと言う、相反する命題を満たす漆器が出来たと言えるかと思います。

 

また古典様式の改変技法は一部で「保勘平様式」と同じ技法を用いる事、及び「保勘平様式」の下地にも用いられる事から、「保勘平様式」には2種類の表現が存在し、一つは掲載されている製品のような硬質表現、そしてもう一つは旧来から存在する「輪島塗」の「真塗り」に代表される滑らかな光沢仕上げが存在します。

 

が、こうした一見輪島塗と同じにしか見えない品でも、それを手に取った瞬間から夏未夕漆綾独特の柔らかさや滑らかさ、軽さを感じて頂くことが出来るかと思います。


「この、先に明るさの見えない世の中で、輪島塗などと言う優雅な物を遣っている場合じゃないよ」と思われる方も多いかも知れませんが、夏未夕漆綾の「保勘平仕様」を一度手に取って頂ければ、その価格以上の価値を感じて頂けるかも知れません。

 

もしかしたらこれが最初で最後の自分広告の記事になるかも知れませんが、自分を褒めるは愚かに思え、かと言ってけなせば惨めになる。

輪島塗を売るのは中々難しいな・・・と思います。

 

「保勘平仕様」、どうぞ以後宜しくお願い申し上げます。