「箸の頭」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2019/02/16 11:51



箸の市場はその90%を福井県が握っているが、その中には輪島塗の箸も勿論存在する。

一般的な輪島塗の定義、これは輪島漆器商工業組合の定義が参照されるが、布を着せたもので、輪島地の粉が使用されているもの、天然漆が仕様されている事を条件とする。


しかし輪島塗箸に布をかけたものなど存在しないばかりか、その大半は合成漆、つまりは漆風の塗料で塗られたものとなっている。

輪島塗と言う名称で販売されている箸には、作業工程と材料で判断するなら、大まかには3種の区分があり、その最下層にはカシュー(塗料名)塗りや、合成漆塗りが在り、その上には一応の下地をして天然漆を塗ったものが存在するが、この2種の強度、手触りは殆ど変わらない。


更に上位区分の箸は下地をして刷毛で上塗り漆を塗ったものが君臨する事になるが、それでも製造段階で下位のものと工法を同じくするものが在り、工法に拠っては上位クラスの箸でも下位クラスの箸と変わらない強度と言う場合が出てくる。


箸のキーポイントは先端と頭である。

良い箸は長く使っていても先端が磨り減って木地が出てくるまでには時間がかかるが、低グレードの箸はすぐに先端の塗料が切れて木地が出てくる。

1膳が500円以下の箸は殆どこの状態と言えるが、しかし購入時にこれを見分ける事は難しい。

が、購入時に高級箸と低グレードの箸を見分けるには、箸の頭を見ると明白になる。


箸は胴体部分を長く作り、これを仕上げて最後に頭の部分を切って調整する方式が一般的だが、こうして製作しないと、塗っている途中に手で持つ部分が無くなるからであり、また乾燥時には長くなっている部分を、丸い小さな穴が開いている板に突き刺して乾燥させるからだ。


それゆえ胴体部分が仕上がった箸は、長く伸びた頭の部分を最後に切り取って、そこに下地をして上塗りを施して仕上げる事になり、この場合は先に仕上がっている胴体部分を傷めないように頭の角は鋭く切り立った状態でしか仕上げられない。

この工法は比較的高価な、例えば1膳が5000円以上するものでも用いられるが、基本的に頭の部分が抜ける、簡単に言えば頭の丸い部分が剥がれ易い欠点を持つ。


近年ではこれをごまかす為に下地を厚くして、角が研磨されたように見えるものも出てきているが、これでは更に剥離率は高くなる。

良い箸はこうした意味では頭の角が胴体部分と同時に仕上げられているものを指すが、この場合は頭の角はどこを触っても滑らかな感触となる。


ただし、こうした仕上げ方をするには、1本の箸を2回に分けて塗る必要が有り、これを複数回繰り返す配慮のある箸は、当然先端部分にも配慮が為されている事になる。

ちなみに夏未夕漆綾ではどうのような工法で箸を塗っているかと言えば、生漆原液を5回塗るが、この時先端部分を塗って乾燥させる時は、1本々々の箸を吊り下げて乾燥させる。

これに拠り、先端部分の漆の厚みを確保し、更にこうした工程を経て中塗り、上塗りと進んでいく。


が、では最後の上塗り時、1本の箸を2回に分けて塗る訳だから、必ずどこかにその継ぎ目が出てくる事になる、その継ぎ目が見えないのは何故か、それは企業秘密とさせて頂こうか・・・。


箸の頭の角を指で撫でてみて、そこが滑らかな箸は極めて少ない。

また無理して輪島地の粉を使っている箸は持った時硬く感じる。

生漆と言う最高強度の漆を塗り重ねたものは、意外にも仕上がりはとても柔らかく感じ、しかも強度は輪島地の粉や合成漆などとは比較にならない高さを擁す。


漆器のプロでも箸の頭の角に付いての認識が無い者は意外に多い。

それゆえ、私が塗った箸の頭の角を指でなぞる人間がいたなら、私はきっとその人間が何を生業としていても恐ろしく思うだろう。

幸いな事に目の前でそれをされた事は、今までに一度も無いが・・・・(冷汗)