2019/03/07 06:14

陶器が割れる原因の最も多くは人の過失だが、一定の温度と乾燥具合に拠っても自然破損する事があり、タイミングで破損する場合もある。

空手などで瓦が簡単に割れる原理に同じだが、人に拠っては陶器が割れ易い場合がある。

 

私はこれまでに湯呑み茶碗を持っただけでひびが入った人に2人遭遇しているが、いずれも大した力も入れていないにも拘わらず、2個続けて茶碗にひびが入り、3度目は割れなかった。

 

そして良い陶器、大切にされている陶器は「場」と「扱い」に気を付けられている為に破損しても粉々になると言うようなことはない。

茶道などで抹茶椀を眺める時のように、畳の部屋で腰をかがめて落さないように両手で扱われる茶碗は、例え割れても破片が4つを超えることは少ない。

 

これが10を超える破片になっている場合は、それが使われていた「場」と、その陶器に対して何か粉々になるような思い、或いは油断や怠惰が働いている事になるのかも知れないが、もっと言えば金継ぎをしたいが為に、割れていない茶碗を割るなどの行為は個人的には許し難い。

 

ではまず破片が4つ以下の陶器の麦漆接着から始めよう・・・。

用意するものは20cm四方以上の広さがあるガラス板、若しくはアクリル板1枚。

それと小さ目の金属製フライパン返し2枚、割り箸は使用済みでも構わないが、これが1本、生漆(きうるし)50g入りチューブ1本、それに小麦粉が大匙(おおさじ)3分の2ほど、セロテープに何某かの小さな容器に移し替えられた灯油、手を拭く為のウェス(これは化繊ではない綿のものが望ましい)を2枚。

後、カッターナイフが1本あれば充分だ。

 

これだけ用意すれば金継ぎの基本である「麦漆接合」が出来る。

費用は一番高いもので生漆の800円かガラス板の代金だが、後は100均コーナーでも揃えられ、麦漆の完全乾燥は4週間以上だから、最初の1ヶ月は2000円ほどですべて用意できる。

金継ぎ教室の受講料よりは遥かに安いとは思うが・・・。

 

麦漆は前回の記事でも書いたように化学反応乾燥だから、基本的に一度調合したら翌日には使えない。

それゆえ割れた陶器破断面の合計と照らし合わせて調合する必要が有り、最初に大さじ一杯の小麦粉をガラス板にあけ、その上からチューブの生漆を垂らして堅さを調整する。

 

生漆入りのチューブは蓋を開けても、口にもアルミ密閉されているから、割り箸の先を鋭く削ったもので付いて漆が出てくるようにして小麦粉の上に垂らす。

この時のポイントは漆を少しずつ垂らし、それをフライパン返しで練りながら混ぜる事で有り、漆が多すぎて柔らかくなると化学反応速度が追い付かず、いつまで経っても乾燥しない状態になる。

 

フライパン返しが2枚必要なのは、くっついた漆をもう一つのフライパン返しで削ぎ落として漆を集める為で、最終的にこの麦漆がどれくらいの堅さになれば良いのかと言えば、虎屋の堅練り羊羹より更に少し堅い程度であり、漆を沢山入れれば強度が増すと言う筋合いのものではなく、むしろ漆の入れすぎは非乾燥漆となる事を忘れてはならない。

 

気分的にはこんな堅いもの、どうやって塗るの?と言う感じの仕上がりが望ましい訳である。

 

で、こうして出来上がった麦漆を割り箸の先を平たく削ったもので、巻き取るようにしてすくい、割れた陶器の両面に練りこむようにして置いて来るのであり、この時余り多くを置きすぎるとはみ出しが大きくなるので、破断面が透けて見えない程度に均一に塗って、破片の両側を持っても揉み付けてなじませ、これを全ての破片に行う。

 

最後に割り箸の漆が付いていない箇所で少し抑えて破片同士が段違いになっていないかをを揃え、人が通らないところにサランラップを小さくちぎって敷き、この上に陶器をうつ伏せ状にして置く。

陶器は外側に開く力が働いている為、漆が堅ければめったな事はないが、もし少しでも規定より柔らかければ仰向けに置くと、麦漆接合が翌日までに外れてしまう場合がある。

それで俯(うつむ)いた状態にして置くのである。

 

更にサランラップを敷いておくと、漆はその接点だけ乾燥しない。

これが他のメーーカーのラップだと、乾燥したらラップもくっついてしまう可能性が高いので、サランラップが一番良いのである。

 

終わったら調合した漆も割り箸も全て棄ててしまう。

ガラス板やフライパン返しは灯油をウェスに付け、それで綺麗にふき取り、手に漆が付いた場合も灯油を付けて拭き、その上で石鹸で綺麗に洗えば、漆かぶれの60%は防ぐ事ができる。

 

これが職人だとどうなるかと言えば、生漆が桶入りになり、フライパン返しがヒノキか能登ヒバの木へらになっている程度の差でしかない。

更にこの漆は化学反応乾燥なので、漆の常温乾燥には不可欠な湿度は、この段階では意味が無い。

 

次にこの接合陶器を触るのは1週間後になり、完全乾燥は4週間以上、もっと完璧を期すなら3ヶ月ほど置いておくと、とても素晴らしい物になると思う。

ちなみにこうした接合方式で陶器以外に麦漆を使うケースは、漆塗りに使う刷毛の柄を差す時と、職人の命も言える塗師小刀の柄を差す時である。

 

両者とも柄の内部に麦漆を詰め込む形になる為、金継ぎ漆よりは柔らかめの麦漆が調合され、完全乾燥には半年から1年の月日が必要となり、上塗りの漆刷毛は人髪が使われていた。

 

昭和40年前後までは漆刷毛製造に関して、日本でも女性が髪を売って生計の足しにしていた時代もあるが、その後一時中国の女性の髪が使われた時もあり、現在は合繊毛が使われていて、蒔絵の筆もむかしは「船鼠」(ふなねずみ)の毛が最上だったが、これも今は合繊毛の筆となっている。

 

余談で長くなってしまった・・・。

次回は10個以上の破片になってしまった陶器の麦漆接合方法に付いて解説する。