「自宅で出来る超硬派伝統金継ぎ」・6 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2019/03/09 04:34

さてここまでは割れた陶器の麦漆接合だったが、金継ぎは割れた部分だけとは限らない。

 

例えば縁が少しだけ欠けている、または魚鱗(ぎょりん)状に少しだけ欠ける場合もあり、こうした欠けを「貝欠け」(かいがけ)とも、「みみ欠け」とも言うが、これの補修に関しては麦漆を使わない。

 

産地や職人さんに拠っては「サビ漆」と言って、生漆と砥の粉を練り合わせた物(パテ状になる)を盛り上げて、それを研ぎ成型して漆を塗って金を蒔く人もいるが、この技法は漆や繊維の上には有効だが、陶器の上と言う事になると、10年の歳月を考えるなら剥離の可能性が極めて高くなる。

 

ただ正規の方法からすれば圧倒的に短い期間で修理が可能であり、短期間で形にしなければならないと言う場合には良いかも知れないが、やはり長期を考えるなら「色漆塗り込み」の技法が最も強度と品質を保全する事になる。

 

縁の欠けの深さは見た目よりは深いものであり、ここに液体の漆を滴状に落として埋めて行くには、何回も塗り込みが必要になり、為に乾燥時間×塗る回数の期間が必要になる。

 

しかも急ぐと仕上がったときは良くても、3ヶ月もすれば少し収縮して周囲より高さが無くなる恐れが有る為、ここは小さいからと言って軽く見る事無く、しっかり時間をかけて補修する事が望まれる。

 

用意するものは麦漆を作るとき使ったガラス板、それに小さめのフライパン返し2枚、「ベンガラ粉」「朱合漆」、それに小さな中仕上げ砥石、毛の本数が少なく、長さが2cm以上有る堅めの細い筆、絵の具用でも何でも良いが、首都圏でも漆材料屋さんに問い合わせれば、1本450円ほどで売っているものなどと、灯油と菜種油(サラダ油も可)を用意する。

 

まずベンガラ粉を小さじ1杯、ガラス板に出し、これに50gチューブ入り「朱合漆」を垂らしてフライパン返しで攪拌するが、粉と漆の比率は粉60に対して漆100である。

 

これを混ぜたら小さな砥石で、ガラス板の上のベンガラ粉と漆を混ぜたものをすりつぶすようにしてベンガラ漆を作る。

すり潰れたかどうかは、砥石のすべり具合で解るようになるので、いい加減摺り潰れたら漆を集め、このままでは筆のすべりが悪いので、全体の10%か20%ほど灯油を垂らして薄める。

 

ベンガラ漆は漆器材料屋さんでもチューブ入りで売っているかも知れないが、これは1500円くらいするかも知れない。

そう言うものを使っても良いが、朱合漆と言うのは「透明漆」の事で有り、乾燥すれば茶色で透けた感じの色になり、10年も経てば完全に透明になる漆を言う。

 

また何故ここで使うのがベンガラ粉かと言えば、ベンガラの粉が色漆顔料の中で一番粒が大きいからである。

この粒の大きさを利用して欠けた縁を早く盛り上げようと言う事である。

 

筆はまずガラス板の上で灯油になじませ、これを割り箸などで抑え灯油を滲み出させるようにして搾り出したら、綿のウェスでふき取り、この先にベンガラ漆を付け、容器の欠けた部分に厚めに塗る。

 

この場合縁が欠けたものだと、多めに持って行って置いて来るようにして、すぐにその縁が下になるよう、欠けた部分の付近に添え物をして浮き上がらせ、そのまま暫く置いておく。

 

貝欠けのように縁を含め、平面部分にもうろこ状の欠けが有る場合は、ここに大目の漆を持って行って置いたら、この欠けと地面が平行になるように添え物をして置いておく。

 

この間にサランラップを広げて置き、そこへフライパン返しですくって余ったベンガラ漆あけ、最後の1滴まで移し終えたら四隅を持って漆がある所をラップの上から押さえて包み込みラップをねじって、そのねじった部分を洗濯ばさみで押さえ、500ミリリットルくらいのペットボトルの口を切り落として、その中へ倒さないようにして入れて保管する。

 

ちなみにベンガラ漆は調合して数ヶ月が経過しても乾燥速度が変わらない為、ここで作った漆は再度使える。

本当はベンガラ漆を使う前に、漆を吉野紙で漉す(こす)作業が必要なのだが、一番最初は下塗りなのでこれを省略した。

 

そして筆はガラス板に灯油を出してそこで洗うように漆を落したら、割り箸で抑えて搾り取り、この時の灯油と搾り出した灯油とベンガラの混合液は棄てる。

更に今度は菜種油(サラダ油)をガラス板に出し、そこでも筆の軸を付けてぐるぐる回すようにしてから割り箸で絞り取る。

 

この作業は菜種油にベンガラの赤い色が出なくなるまで続け、最後に菜種油が筆に薄っすら残った状態で、この筆の先をサランラップで包んで保管する。

この筆は後に金を蒔くまで使えるし、菜種油で保管する限り、いつまでも使える。

 

またどんな高価な筆でも安い筆でも、筆には縦と横が有る。

細く引ける部分が縦、どうしても広がって行く部分が横となるが、これは今の段階では意識する必要がない。

 

塗り終わった陶器は、6時間から8時間後に塗った箇所へ息を吹きかけ、そこでほんのり白く息の跡が付いていたら、そのまま24時間置き、この時息を吹きかけても何も変化しなかったら、内側を塗らした段ボールの中へ、塗り終わった直後に置いた状態と同じにして入れ、12時間後に息を吹きかけて反応したら、それから24時間をそのままにして置く。

 

更にここから毎朝、毎夕ダンボールの内側を水でぬらして、ここに漆を塗った陶器を入れ、これを3日続けたら1日はダンボールを濡らすのを辞め、翌日にまたダンボールを濡らして入れて、乾燥が終わる。

 

この作業を「しめかけ」と言い、漆は塗っただけでは仕上がらない。

きちんと手をかけて乾かさないと漆器にはなれず、この乾かす作業が重要なのである。

 

注意点は、一度に無理をして厚く塗り過ぎない事で、余り厚すぎると表面が縮れてしまい、これを乾燥させるには通常の倍の手間がかかる事になる。

それゆえ、粘性を弱める為全体の10%から20%、灯油で薄めて粘性を弱め、厚くなる事を抑制し、縁欠けの場合は表面張力の逆を利用して、表にしておけば漆が重力で下に行ってしまい、いつまで塗っても縁の欠けは埋まらない為、裏返して置き、漆が縁の高さに向かうよう仕向けるのである。

 

縁欠けは少なくとも3回、貝欠けでも最低2回、このベンガラ漆の工程が必要になる。

つまりこれだけでも最低2週間や3週間はかかるのであり、これが3日で終わる「サビ漆補修」が如何に早いかが理解できるだろう。

 

そして全てがそうだとは言わないが、乾燥と言う一見無駄にも見える時間を多くかけたものは長く残り、この時間の短いものは残りも短い・・・(言い過ぎかな・・・)