2019/03/10 06:30

さてこれまでに2種の接合方法と、1種の補修方法が出てきたが、この中で10枚以上の破片となった陶器の金継ぎは、基本的に型取り以外は普通の金継ぎと同じであるから、大まかには2種の技法と考えても良いだろう。

 

そして麦漆接合が中間で向かう先は、ベンガラ漆に拠る塗り込みとなる為、原則全ての金継ぎ技法の中間目標は、貝欠け補修時に行った工程と同じと言える。

 

麦漆で接合した陶器は基本的に3日間触ってはならない。

くっついているか否かを確認する為に、接合翌日に触って外れてしまうと言う事は良く起こり得る事ゆえ、どんなに心配でも3日間は触らずに、漆と自分を信じてやることが大切だ。

 

接合して3日が経過したら、麦漆接合時に接合部分からはみ出した漆を一箇所だけ爪で圧してみて、それが座礁するように簡単に凹んだら、この時はダンボールの内側を水で湿らせ、その中に入れ加湿を加える。

これを朝、夕2回、3日間続ける。

 

麦漆の当日の乾燥力は化学反応だが、これが終わったら今度は漆だけの乾燥力、つまり、通常の常温乾燥能力の半分しかないが、それでも常温乾燥能力しか残っていないから、これを使わねばならない。

 

初期に漆を入れ過ぎていると、場合に拠っては1ヶ月経っても柔らかいままと言う事態も出てくるが、この目安となるが1週間であり、1週間経っても接合時に出来たはみ出しが柔らかいままだったら、一度全て外して、灯油でふき取り、更に灯油の油性をシンナーで飛ばして、最初からやり直した方が良い。

 

この時未練がましい事を考えていると、最後まで不安が残ったままの金継ぎになり、しいては他の力学的理由で後に金継ぎが外れても、「しまったあの時・・・」と思ってしまう事になる。

 

粘土で型を取った方は、1週間触ってはならない。

その外側のはみ出し漆をやはり圧してみて、1週間後も柔らかかったら、はじめからやり直しになる。

 

が、爪で圧して見て、有る程度堅い感じ、堅めのビスケットくらいの硬さになっていたら、粘土を真ん中からスプーンでくりだすようにして真ん中に穴を開け、縁から出ているサランラップを引っ張れば綺麗に粘土は外れる。

 

しかし、この時内側はサランラップで密閉されていた為、おそらく必要な乾燥強度に達していないから、ここから3日間、やはりダンボールの内側を水で濡らした中に入れる作業を行い、内側も外側とほぼ同じ乾燥強度になったら、今度は割り箸の先を削ったもので、はみ出している漆を削っていく。

 

何故、一番最初にシアノン系接着剤に拠る接合をやったか、今こそその意味が解る訳である。

麦漆は1週間では完全乾燥の40%にも達していない。

それゆえ少量の水を付けながら木の先でこすっていけば、周囲に飛び散った漆は綺麗に落ちていくのである。

 

だが、ここで水を付け過ぎると、場合に拠っては外れる恐れが有る為、水はティッシュで湿らす程度にしてこすっていく訳である。

 

この方法は通常の金継ぎ接合も同じであり、やはり3日から1週間後には割り箸の先を鋭くしたもので、少量の水を付けながらはみ出した麦漆をこすり落として行く。

この時期を見逃すと、麦漆は乾燥強度を増して行き、はみ出し漆が取れなくなってしまう。

 

ただ、はみ出した麦漆をテクスチャーとして使う場合は、この麦漆をこすり取る工程を行わないが、はみ出し漆を使う場合の目安、綺麗さの基準は丁度糸を置いたように見えるほど細く、有る程度均一に漆がはみ出している事を条件とした方が良い。

 

20年ほど前アジアンテイストと称して、素朴な陶器や漆器が流行したが、素朴の概念は生活に密着している事で有り、これはこれでそれなりの歴史や伝統を持つ物を言う。

単に簡単に出来て雑なものを指すわけでは無い事を考えるなら、素朴な仕上がりの中に1箇所でも精度の高い部分が無いと、素朴と言うよりは粗野になって行く。

 

中途半端にはみ出し漆を残して、太い線になってしまった金継ぎを見ると、どこかでは風情に欠ける。

むしろ接着材で接合した方が、元の風情を壊さずに済むと言うものである。

 

この工程は麦漆接合後、7日から12日以内に行い、これが終わったら3週間自然乾燥させると麦漆は82~88%ほど乾燥し、次ぎの研ぎとベンガラ漆に拠る線引き作業へと進む。

 

ちなみに麦漆の完全乾燥、94%以上の乾燥は130日くらいかかるが、必要強度は84%乾燥以上であれば充分である。

 

漆の乾燥とは基本的には水分量の問題であり、この事を考えるなら乾燥して硬化すると言う事は、ある種の「劣化」でも有る。

水分が完全に飛んでしまうと、今度は強度が低下していくのであり、これを抑制する為に金継ぎでは金を蒔くのであり、一般漆器では上塗り漆を塗る訳である。