2019/04/01 06:33

人気のある商品と言うものは、その人気ゆえに人の心、またその冷静な判断を奪うものであり、非効率性や大変な労力は華やかさによって麻痺させられ、名声や評判と言った、本来利益とは無関係なものに価値を求めていく傾向を作ってしまうが、このことに気が付くのは全てが終わってしまってからである。
 
それゆえ古今東西の歴史書、また処世術を語る記録は、人間がその絶頂期にあることを一番の危機と考えよと諭すが、こうしたことを実践できる者は大変少ない。
人気がある商品や技術には、そもそもの需要が備わっているが、それにこぞってメーカーが参入した場合、そこでは仮想の需要を巡って実際には熾烈な競争が発生し、この場合の勝者は常に巨大資本となる。
 
この状況を「レッドオーシャン」(熱い海)と言うが、人気があることは即ち利益を出すと言うこととは別のものであり、その需要は必ずそれぞれのメーカーによって独自の需要が見込まれることから、「重複需要」となっている。
従って資本が他の企業より劣る者、競争力のない者は初めからそこへは参入してはならないはずだが、実際には「そこが儲かる」と聞けば、皆がこぞって集まってしまう愚かな習性が人間には存在している。
 
昨今の自動車産業を鑑みるに、どのメーカーもこぞってハイブリッド技術、電気自動車技術にその主眼が集中し、そこでは熾烈な競争が繰り広げされているが、日本の自動車メーカーで唯一こうした動きとは逆の、比較的競争の少ない方向、つまりはブルーオシャン(非競争市場)にいるのが「マツダ」である。
 
世界的な傾向として、ハイブリッド自動車などの開発では電気で動く技術に注目が集まり、この分野では大変な技術競争が始まっているが、では実際に自動車のエンジン性能を上げることで低燃費をはかる技術開発はと言うと、どのメーカーでも華やかな電気部分に目を捉われ、何の開発も行なわれていない。
 
こうした中で「マツダ」は自動車の基本性能であるエンジンを研究開発し、2010年10月、「SKYACTIV-G」(スカイアクティブG)エンジンを公開したが、このエンジンは高圧縮比14・0を実現し、大変力強い中に燃費性能も従来より15%アップさせている。
これによって例えばマツダ車の1300ccクラスの乗用車は、既にハイブリッドではなくてもガソリン1リットル当たり、23kmを超える距離を走ることができる低燃費車を実現させているのである。
 
面白いことだが、こうしたマツダの有り様を見ていると、どこかでは1984年の富士フィルムの有り様が重なって見えてくる。
自動車産業はやがて電気自動車に向かうことは間違いがない。
しかし現実に電気自動車が一般に普及できる価格になるまで、また電気だけで走れる継続移動距離が現在のガソリン車並みになるまでには、まだ10年近い時間がかかるだろう。
 
だとしたらそれまではガソリンと電気が補完し合って走行する、ハイブリッド車の市場は10年間は安泰と言う事になる。
そして世界中の自動車メーカーが開発に躍起になってるのが電気部門で、エンジン部門は誰も見向きもしていないとしたら、レッドオーシャンの中で電気部門の競争が激化し、そこから更なる技術も生まれてくるだろう。
 
だが基本はガソリンで走る訳だから、エンジン性能を向上させて燃費アップをはかっておけば、最後に完成された電気技術を搭載することによって、マツダは他のメーカーを超える燃費性能車を生産出来ることになる。
つまりは熾烈な電気部門をその他大勢のメーカーに任せ、自分はエンジン性能を向上させる方向のみに資本を集中させることができ、やがて電気部門のレッドオーシャンが終われば、もしかしたら「一人勝ち」の状況が期待できるのである。
 
そう上手く行くかはともかく、マツダは同じようにディーゼルエンジンの開発も行っていて、ここでは信じられない低公害エンジンの開発が行われている。
余り着目はされないが、自動車は乗用車のみが市場ではなく、コンピューター社会の出現によって、より細部に渡る輸送時代が訪れつつあることを考えるなら、輸送用車両としてのディーゼルエンジン市場は拡大方向にありながら、世界の自動車メーカーはこの分野もやはり見落としている。
 
例えば100の需要が有ったとしても、そこに200のメーカーが集まっていれば、需要は0・5しかなく、そこでは価格競争と言うデフレーションが起こるが、たった20しか需要がなくても、2社しかメーカーが存在しなければ、その需要は10と言う事になり、尚且つその100と20が将来併用できるものであるとしたら、100の市場を目指すよりは、20の市場を目指す方が賢い在り様と言うものであり、この場合20の市場を目指した者が、最終的には100の市場を独占的支配することも可能性としては有り得る。
 
世界経済、取り分け日本経済はどうも見た目の華やかさや、目先の利益に翻弄されている傾向があるが、目先の利益を追うなら徹底的に、遠い先の利益を目指すなら、したたかに「他の力」を使ってでも逃げ切ってやろうと言う覚悟が必要である。
 
政府から補助と言うお恵みを頂いている、またはそれを当てにしているようでは、それは企業ではなく、「企業もどき」と言うものであり、そうしたものはいずれ大きくなっても自重で崩れていく「砂の城」でしかないが、そうした多くの「企業もどき」に混じって、富士フィルムやマツダなどの企業が存在する事実は、日本の大いなる救い、希望と言うべきものかも知れない・・・。

※  この記事は2009年に執筆したものを再掲載しています。