2019/04/27 06:01

おそらく人類全体が抹殺されるほどの事態が引き起こされるとしたら、それは地球か太陽、または宇宙空間上の僅かな変化によって起こってくるだろう。
しかしそれ以外で人類が未曾有の危機にさらされるとしたら、この地球で最も小さな生物、いやそもそも生物とさへ言えないかも知れない、ウィルスによってそれが成し遂げられる可能性が高い。
 
戦争や災害は現在までのところ局地的なものであり、また一時的な状況だが、例えば蚊を感染媒体とするマラリアでの死者は毎年300万人前後であり、これがH5N1のようなインフルエンザが流行した場合、世界的に1000万人を超える死者が出る可能性が高い。
そしてこうした病原の初期段階は決定的なものではないが、総合的に人類の個体数を遥かに凌駕する動物で発生したものが、その後ウィルスの人間に対する感染能力獲得によって、人間にも感染していく一つの流れを持っている。
 
日本では「狂犬病」は克服された病気だが、アメリカやヨーロッパでは現在も狂犬病に感染して死亡する人が減少しておらず、WHO(世界保健機構)の調査では、2009年でも年間5万人前後が「狂犬病」に感染して死亡しているのではないかと報告されている。
「狂犬病」はこれを発症すれば死亡率100%の恐ろしい病気で、しかも人間には犬などのペットによって最も感染が広がり易い感染病原でもある。
 
2005年の結果だが厚生労働省の調査によると、日本でこの前年に「狂犬病」の予防接種を受けた犬は凡そ480万頭、しかし同じ年の日本ペットフード工業会の販売実績統計では、1245万頭の犬が国内でペットとして飼われている可能性を指摘している。
だとすると日本に措ける犬の「狂犬病予防接種率」は全体の38・5%と言う事になるが、例えばどんな病原体でもそれに対して大流行させないだけの全体的抗体を形成させるには、全個体の70%の抗体、つまり予防接種が必要となる。
 
日本は克服したとされる「狂犬病」ですら、今のところその病原体の気まぐれによって、感染の大流行が抑制されている状況と言える。
 
一般に人間と動物の間を移動する感染症を「人獣共通感染症」「動物由来感染症」と言うが、病原体にはウィルス、寄生虫、細菌、原虫、節足動物などが存在し、日本の家畜や野生動物が関連する病原体は大体150種に及び、犬や猫が関連する病原体はこの内30種前後である。
 
「狂犬病」(rabies)は哺乳類を中心とする「温血動物」が感染するウィルス性感染症であり、感染動物に咬まれることによって感染するが、これは犬だけと限定されていない。
日本では1950年に「狂犬病予防法」によって犬を飼うためには登録が必要となり、これと同時に予防接種が徹底されたことから、1957年を最後に「狂犬病」の発生は記録されていないが、こうした地域は稀で、世界的にはイギリス、ハワイなど一部の地域を除き、狂犬病のウィルスは拡大していると考えられている。
 
また「レプトスピラ症」(leptospirosis)、これは地方によって「秋疫」(あきやみ)、若しくは「七日熱」などとも呼ばれるが、一番有名なところでは「ワイル病」のことであり、病原菌は「レプトスピラ」(leptospira)、この菌を媒介するものは「ネズミ」である。
そしてこうしたネズミの天敵である猫には「猫ひっかき病」(cat-scratch disease)と「トキソプラズマ症」(toxoplasmosis)がある。
 
「猫ひっかき病」は猫の口の中や爪、血液中に存在する「バルトネラ・ヘンセレ」(Bartonella hennselae)が病原菌とされ、猫によって咬まれたり引っかかれた場合、更には猫に寄生している蚤に咬まれることなどによって、この菌に人間が感染する。
咬まれたり引っかかれたりしてから2週間以内、早ければ数日後には咬まれた部分が赤紫に腫れ上がり、進行すれば化膿し、最終的にはリンパ節の腫れを引き起こして、激しい痛みを伴うことがある感染症だ。
 
                         「人と動物を繋ぐ影」2に続く