2019/05/08 06:15

1970年代の初頭、アメリカでは従来の化学農薬に変わって新しい概念の害虫駆除、除草方式が相次いで開発されて行った。
例えば「モンサント社」のジャガイモ「ニューリーフ」などは、ジャガイモの害虫である「コロラド・ポテトワーム」を駆除する遺伝子が組みこまれ、これによってそもそも初めからジャガイモが害虫を駆除する機能を獲得したのであり、1995年にはこのジャガイモの商業生産開始がアメリカ環境保護庁によって許可された。

さらに同社は「グリホサート」と言う除草剤も開発しているが、この除草剤は雑草などの植物がアミノ酸生成に必要な酵素の働きを阻害し、これによってその植物を枯らしてしまう作用を持っていたが、この「グリホサート」が大量使用された場合、当然のことながらジャガイモもまた枯れてしまう。

だが「モンサント社」はここで「グリホサート」に対して抵抗を持つ酵素の遺伝子、これは土壌中に存在する細菌から発見された遺伝子だが、これをジャガイモに組み込み、即ち毒ガスで全て殺傷しながら、特定の遺伝子、例えばワクチンを注射したジャガイモは生き残れる形式の、「亜種ジャガイモ」の開発も行なっていた。

こうした形態の農薬を以前の科学農薬と区別して「生物農薬」と言い、また本来その植物などが獲得していない遺伝子を組み込んで、効率的に生産された農産物を「遺伝子組み換え植物」もしくは「遺伝子組み換え食品」と言う。

またトウモロコシの害虫に「アワノメイガ」と言う虫が存在するが、「アワノメイガ」は主にトウモロコシの葉を食べていくことから、アメリカの農家は毎年大量の農薬を散布し、この害虫の駆除を行なっていた。
そこでアメリカのバイオ企業である「ノースラップ・キング」社は細菌の一種である「パチルス・チューリンジェンシス」が作り出す殺虫作用の有るタンパク質、「Bt」遺伝子をトウモロコシに組み込んだ。

このことから一般的に「Bt」と言えば、全ての生物農薬や遺伝子組み換え食品を指しているような印象を社会に与えてしまったが、「Bt」は決してすべての「生物農薬」や「遺伝子組み換え」を概念するものではない。
だがこのBt遺伝子組み換えトウモロコシの効果は目を見張るもので、トウモロコシの葉を食べ消化管の機能を阻害された「アワノメイガ」は面白いように死んで行き、その効果が余りにも大きかったことから、未だに害虫が死んでいく場面のテレビ報道は差し控えられている。

そしてこうした事が進んでいくと、これもアメリカの種苗会社「デルタ&パインランド」社の例だが、自社開発された同社の稲や麦の種を勝手に栽培者が手に入れ、それを育成して生産しようとしても、これらの種からは発芽しないような、発芽遮断遺伝子組み換え種が開発されている。

つまりここではいくら素晴らしい種を手に入れても、特定の会社から鍵や解除コードになるようなものを買わないと、種から芽が出ないのであり、この概念はハードを買ってもOSがなければ動かないパソコンの概念に近く、種を知的所有権と考え、それを法では無く、自社防御システムで構築したところに、アメリカ企業が持つ「法」に対する考え方を垣間見る気がする。

その上で一般大衆はあまり気がついていないかも知れないが、花屋の店頭で売られている「花」が、どうしてあんなに綺麗なのかを考えたことがあるだろうか。
私たちがバラを植えてもあんなに綺麗な大輪の花が、しかも虫喰いなど全く無く育つことは有り得ない。

実はこうした観賞用植物の遺伝子組み換え技術に対する私たちの注意力は、それが食品ではないことをして大変散漫なものとなっていて、例えばトルコ桔梗は本来高さの有る植物なのだが、切花用に見かけるトルコ桔梗にそんな高さのある花は売っていない。
トルコ桔梗は遥か以前から高さが抑制される遺伝子組み換えが為されたものが、主流になっているのであり、これもジャガイモと同じで本当は「トルコ桔梗亜種」なのだが、一般的に私たちはこうしたことに気がついていない。

またカーネション、この花はもともとエチレンガスを生成する植物であり、このことからカーネーションは自分が生成するエチレンガスによって、早く枯れていく性質を持っているが、例えば1日で枯れていくカーネションは、現代社会では「不良品」と看做されるだろう。

本当は枯れていくのが正しいにも拘らず、それが枯れないことをして商品価値とし、またこれに基準を持ってしまうと、亜種が正当化され、原種は「不良品」や「不適格」となって行ってしまうのであり、カーネーションも勿論、今私たちが手にしているものは、ずいぶんと以前からエチレンガス生成が抑制される遺伝子組み換えが為されたカーネーションな訳である。

                                               Bt・生物の人為的揺らぎ2に続く