「安全なリスク」・1 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2019/05/13 06:02

剣の世界で最も安全な位置は相手の刀の届かない位置よりもむしろ、相手の腕の長さより近い位置であり、これはボクシングでも同じことが言える。
すなわち自分が相手の懐に入ってしまえば、敵は自身に向けて刀を向けない限り、こちらを倒す事は出来ない。

また同じ剣の闘いで、もし相手が確実に自分より強い事が分かった場合、これは現実には有り得ないが、つまりは相手の腕が分かると言うことは、こちらの剣の腕が上になるからだが、もしそうした場合が有ったとして、この場合、剣の腕と勝利が同じものだと考えてはいけない。
剣の腕と勝利は別のものだ。

確かに剣で闘えば自分より強い相手には勝てないが、それはあくまでも相手が剣を持っていればの話であり、こうした時は相手の剣を奪う事を考えねばならず、しかも相手の方が剣の腕が上なのだから、剣を使っていては相手に斬り殺されてしまう。
だが勝つと言う事はどう言うことかを考えるなら、この危機は比較的容易に解決の道がある。

ただ闇雲に相手の剣を奪いに行けばこれは簡単に斬り殺されるが、相手は自分に対して何を望んでいるだろう、自分は相手をどう言う状態にしてやろうと思っているだろうか、つまりは自分も相手もそれぞれに斬り殺してやろうと思っているのであり、ならば斬らせれば良い。
そして勝利とは何か、基本的には相手より長生きすればそれが勝利になる。

同じ剣の腕では絶対勝てない相手との勝負は、始めから「死」を覚悟してなければならないが、それほどの覚悟が有って闘うなら、剣で取れないものなら自分の体で相手の剣を奪えば良い。
相手の剣に自分から飛び込み、そして左肩を刺させるようにし、そこからは自分の骨をテコにして相手の刀を固定して、相手の脇差を引き、それを相手の心臓に突き立てる。

これで自分も怪我を負うが、相手は死ぬ。
またもし闘っていて相手に自分の懐に入られてしまった場合、その時は迷うことなく自分に向けて刀を突き刺せば良い。
この場合でも相手は深く刺され、自分はもし刀の先が届いたとしても浅い。
つまり相手は致命傷、自分は傷が深くても致命傷にならなければ、これで闘いに勝つことになる。

しかし自分が無傷で相手を倒そうと考えたときはこうしたことが出来ず、結局中途半端な防御策を講じている間に、相手に斬り殺されてしまう。
闘いは覚悟の問題であり、無傷であろうとするなら、その者は勝利することは出来ない。

そして経済の世界もまた基本的には戦争であり、これは真剣勝負と同じである。
すなわち自分が無傷で勝利しようとし、中途半端な防御策を講じているなら、それは遠からず敗北の道を辿る事になり、何かを守ろうと考えた時から、その守ろうと思ったことによって滅び去ることになる。

現在世界を席巻している経済停滞、通貨危機は、世界経済と言うもののシステムがある種の変革期にあって、これまでのシステムが崩壊していくことを示しているように思えるが、国際社会が急激な変革を起こした場合、その混乱は計り知れず、また現実にも国際社会はその破れた旗であろうと、これまでのシステムにすがるより他に道がない。

EUはギリシャ、ポルトガル、スペインなど次々経済破綻を迎える国々を抱え、その処理の道はアメリカ、日本、中国などの第三国の力が無ければ到底これらを処理しきれず、その意味ではまさしく針のムシロに座った状態であり、これにアメリカの財政赤字の処理が進まず、アメリカ通貨ドルの暴落が加わり、日本はこのアメリカより更に深刻な財政赤字でありながら、国民も政府もまるで仙界に有るかの如く有り様、更にはこうしたアメリカ経済を影で支える中国も、実は国内に経済格差が広がり、それが民族紛争や言論統制などに反発する運動に繋がり、総合的に共産党支配体制に対する不満となって表れ始め、インフレと言う恐怖に夜も眠れない状態にある。

こうした背景から、世界の基軸通貨で有るアメリカドルはもはや崩壊寸前なのだが、今のところドルに変わって世界を支えることができる通貨はどこにもなく、経済大国の中国にしても、自国通貨である「元」の開放は国家存亡に関わる問題であることから手が出せず、やはり破れてボロボロになった旗となっているドルに頼るしか道がない。

アメリカが経済的に敗北しながら、強気なのはこうした国際情勢を見計らってのことであり、ここで国際社会の取れる選択は「より良い選択」では無く「他に余地のない選択」なのであり、このような惨めな選択しかできない背景には、自分の国の経済をなんとか守ろうとするからこそのものであり、今の体制を守ろうとするからこそ、選択の余地をなくしているのである。

「安全なリスク」・2に続く