「妥協する正義」・2 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2019/05/14 06:25

だがこの地球の社会とはまことに面白いもので、こうした経済的利益優先社会、資本主義の嵐が吹すさぶ国際社会に有って、その権化の如くアメリカで、大きな経済的利益に影響を及ぼしても「理」や「正義」を唱える存在が有ったことは、同じような不健全さを持つ日本とアメリカでも、まだアメリカの方が少しは「良心」と言うものを持ち合わせている雰囲気を感じさせた。


アメリカの格付け会社「スタンダード・&プアーズ」は2011年4月13日、膨らんだアメリカの財政赤字を2023年までに4兆ドル(日本円にして335兆円)削減するとしたオバマ大統領の演説が有った直後、4月18日にはアメリカ国債の中長期見通しである「アウト・ルック」を「安定的」から「ネガティブ」(格下げ方向)に引き下げた。

つまり「スタンダード・&・プアーズ」は合衆国大統領の言葉を信じれられないとしたのであり、同じく2011年7月14日には、長期信用格付けの比較的短期見通し「クレジット・ウォッチ」でも「ネガティブ」(格下げ方向)に見直したのであり、こうした一連の手続きを得て2011年8月5、アメリカ国債の格付けがそれまでの「AAA」から「AA+」に引き下げられた。
ここに世界最高水準の安定的信用の有ったアメリカドルは、その絶対的存在からアメリカの格付け会社によって、「非絶対的通貨」で有ることを言い渡されたのである。

1971年、長引くベトナム戦争の費用が膨らみ、更には日本やドイツなどの輸出増大によって大幅な財政赤字となったアメリカは、結果として金の保有量が減少し、ここにアメリカドルによる金の固定比率交換が停止された結果、それまで金を基軸に動いてきた来た国際経済は、今度はアメリカドルを基軸として動くようになって行った、所謂ニクソンショック以来40年間、今日まで絶対的な安定を保持していたアメリカドルを、その地位から追い落とせばどうなるかは「スタンダード・&・プアーズ」が分からない筈はない。

破綻前夜のヨーロッパ経済、同じく破綻していてものんきな日本、統制経済を解禁すれば国家が分裂する中国、その上にアメリカ経済の先行き不安に加え、アメリカ国債の格下げが及ぼす世界経済への影響は計り知れない。
この時点でのアメリカ国債格下げはリスクしかなく、国際経済を混乱させることは確実だった。
しかし「悪いものは悪い」と思える社会、それが言える環境を持つ社会は偉大だと思う。

「正義」や「理」はいつも人々に幸福や発展を約束するものでは無く、時には人を破綻に追い込んだり、現在の時点で守ろうとしているものを破壊することも有り得る。だがその時点での破綻や破壊を恐れて言葉を発しなければ、先の未来に措いて更に大きな破綻や破壊、更には虚無感を生じせしめるものであり、こうしたできるだけ早い段階の破綻や破壊こそが、風前の灯火となった秩序を呼び戻し、大きな破綻や破壊から人々を守ることになる。

それゆえ破綻や破壊が有ったとしても、そこに「理」や「正義を」叫ぶことができる環境こそが、将来の大きな破綻や破壊から国家や人々を守ることになる、即ち最後の希望と言えるものなのである。

現在の国際社会は「利益優先主義」であり、あらゆる価値観や秩序が個人、共有を問わず「利益」に対して少しずつ妥協し、その妥協していった先に訪れたものが今回の国際経済、金融市場の混乱で有り、これは何らかの対策によって解決出来るようなものでは無く、破壊によってしか解決がつかない。

これから今までのシステムの崩壊や破綻が始まってくるのであって、こうした中で「理」や「小さな正義」を口にしたスタンダード・&・プアーズに対し、アメリカ証券取引委員会「SEC」は財政赤字見通しに誤りが有った、公式発表以前に情報漏えいがあった、つまりインサイダー取引のおそれが有ったとしているが、眼前に今は大きな正義や理に見えるものが、実は現在はそれより小さい正義の前に、未来に措いて及ばないことを知らない愚か者のあがきだ。

そして「小さな理」や「小さな正義」を妥協していく事の一番の怖さは、これがいつかは「戦争」へと繋がるもので有る事を、我々日本人は忘れてはならない。