2019/05/17 06:02

人間が聞いているあらゆる音声は鼓膜などが空気振動を受け、その波長を脳が分析して音声として感じられるが、このシステムは受信システムとそれを解析するシステムが常に連動しているのでは無く、解析システムの方が容量が大きく、なおかつ解析システムは他の、例えば視覚解析システムを通じて脳の記憶システムにまで間接連動している。

従って人間が聞いている音声は基本的に全てが事実だとは限らない。
この事はどうして立証できるかと言うと、視覚でも同じことが言えるが、人間は実際の空気振動が無くても音声を聞く場合が有るからで、夢の中に出てくる景色や場面には音声を伴ったものが存在するからに他ならない。

また音声の受信システムは波長ごとの振動によるが、それが脳の解析システムに伝播される時には微弱電気信号と、アナログ伝達方式の2種類の通信システムが働き、この内アナログ伝達システムの有り様は、小さく空いている穴に信号となるキャップが蓋をしたり、それが外れたりの組み合わせで信号を伝える、極めて簡素かつオーソドックスな形式なのだが、こうした傾向は人間の生体維持機構でも同じ形式が多用され、どうして実際の物理的変化が電気信号に変換されるのか、またなぜ電気信号とアナログ信号が併設されているのか、その理由は解明されていない。

こうした事から、我々がある種視覚同様絶対的なものとして考えている音声もまた、その本質は電気信号を含んでいる為、必ずしも空気振動と言う物理現象が無くても人間は音声を感じる事が有り得るのであり、脳はたまにこうした電気信号に干渉しているが、その最たる場合が睡眠中に措ける緊急事態の発生に対処する方式である。

通常人間が地震発生時に感じる揺れはS波と言って、実際に地殻が動いたエネルギーが伝播された振動だが、地震が発生する時にはこのS波の少し前に初期微動が発生し、この初期微動をP波と呼ぶが、このP波はS波より約1・7倍早く伝わって来る。
この誤差を利用して地震発生を知らせるのが気象庁の「緊急地震速報」だが、気象庁が設置した観測機材よりも更に正確なのが、動物や昆虫、魚たちのP波受信システムだ。

それゆえ犬、猫、鳥やカエル、魚たちは実際にS波が届いて揺れ始める前に騒ぎ始めたり、黙ってしまったりする訳だが、残念な事に人間でこのP波を察知できる人は大変少ない。
しかし人間のこの劣化したP波察知能力がある程度復元される状態と言うものが有り、これが寝ている時だ。

つまり人間は起きている状態だと、P波を察知できる確率は7700分の1だが、これが就寝時には何故か4分の1にまで察知確率が上がってくる。
理由は分かっていないが、寝ている間に地震が発生した場合、実際に振動が始まる少し前に人間は目を醒ます事が多くなり、そもそも通常寝ている状態で、例えば人が呼んでも中々目が覚めないのに、遅くとも揺れている最中でも目を醒ますこと自体、ある種緊急に目が醒めている訳であり、これはP波を察知して準備していないと為せないことなのである。

そしてこのような地震発生と言う緊急事態で、寝ている生体を一挙に覚醒させる事は至難の技であり、これは視覚を用いていては間に合わない。
この事から就寝時に地震が発生した場合、脳が生体を覚醒させるために多用する方式は「音声」による緊急通知となるのである。

面白いことに脳はこうした緊急事態であるにも関わらず、どこかでその生体が持つ社会感覚や常識と言ったものを最大現尊重してこれを通知するが、脳は自分だけが地震を察知したとしても、自身の他の部分や生体が機能を始めないと危機を脱することが出来ない事から、体の端末にまで伝わるように「大音量」を発することになる。

1995年1月17日午前5時46分、M7、死者6434人、行方不明3人、負傷者43792人と言う、1944年の昭和東南海地震以来の大被害を出した「兵庫県南部地震」(阪神淡路大震災)が発生した。
この時、午前5時46分に差し掛かった直後だろうか、明石市郊外に住む吉村京子さん(仮名、44歳)は夢うつつの中でキジの鳴き声を聞いていたが、このキジがどこで鳴いているのか、まるで自分の耳元で鳴いているように「ケーン、ケーン」とうるさくて仕様が無い。
「あー、朝からうるさいキジね・・・」と思って目を覚ました瞬間、大きな揺れが始まったのである。

またこうした事例以外にも実は犬がうるさくて目を覚ました人や、時計の音がやたら大きく聞こえて目を醒ました者も多かった。
P波を察知する犬が鳴くのは分かるが、そうした犬の鳴き声がいつもより大きく感じたとする人の多さ、また通常は寝ている人を起こすほど大きな音では無い時計の針の進行音が、まるで「カチッ、カチッ」と大きな歯車が噛み合うような音になって聞こえたと言う震災後アンケートがある。

                                                 「聴覚レンズ効果」・1に続く。