「湯を沸かす」・1 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2019/06/03 04:50

ここにコップ一杯の水が有ったとしようか。
私たちがこのコップの水を見ていても、いつまで経っても何も変化したようには見えないが、気体がそうであるように液体もやはり分子レベルでは変化していて、水の各分子はそのエネルギーに相対した運動をしていて、なおかつこれが全ての分子に措いて均一では無い。

この分子運動エネルギーはその各分子の温度によって一定の分布法則を持つが、この事を「マクスウェル・ボルツマン分布」と言い、その液体表面では比較的大きな運動エネルギーを持つ分子が、周囲の分子との間で働いている結合力「分子間力」を振り切り、空間へ飛び出していく現象を起こしていて、これを「蒸発」と言う。

そしてこれを限定された空間で観察するなら、例えば「たらい」に水を張りその周囲を円筒状に囲み、蓋をしたような容器中の空間では、その単位時間あたり蒸発する水の分子数は水が存在する限り一定と看做されるが、こうして時間経過とともに水の分子結合から空間へ飛び出し、気体となった分子もその温度に従った分布を示すことになる。

やがて比較的小さな運動エネルギーの分子が液体表面に衝突すると、今度は液体分子間で働いている「分子間力」に捕捉され、その力を振り切ることができず液体中に引き戻されて行き、この現象を「凝縮」と言うが、液体が気体化、つまりは蒸発が進行し、空間内に気体分子が増加していくと、単位時間相当に措ける「凝縮」も増加し、ここに蒸発する分子数と凝縮していく分子数が等しい状態を迎える。

この時私たち人間の目には何も変化したものは見えないが、実際には蒸発と凝縮が等しい速度で繰り返し起こっていて、一般的に2つの力が均衡し、丁度天秤が静止しているような状態を「平衡」と言い、水の分子のように分子間力を振り切る分子の力と、逆に分子間力に捕捉されてしまう分子の力が均衡するような場合、視覚的には力が働いていないように見えて、互いに同じ速度の逆方向化学変化を起こしているのであり、地球の海と大気の関係も基本的にはこの原理の中に在る。

また開放された容器、一般的には蓋が液面に密着していない状態の鍋と言えば解り易いかも知れないが、この状態で液体を加熱していくと、その液体の液面付近の蒸気の圧力は限界点である「飽和蒸気圧」まで上昇し、やがて外気圧、(通常は大気圧)と等しい状態を迎える。

このとき液体はその表面からだけではなく、液体内部からも蒸気(この場合は気泡になるが)を発生させ、こうした現象を「沸騰」と言い、この時の温度をその液体の「沸点」と言うが、該当する液体の蒸気圧が外圧、大気圧と等しい状態をして、その時の温度が「沸点」となることから、「沸点温度」は外気圧によって変化し、一定の温度とはならない。
気圧の低い高山では沸点が低い温度から訪れ、例えば低気圧の中にあっても、厳密に言えば通常気圧内条件よりは早く沸点を迎えることになる。

そしてこのことを更に詳しく解説するなら、仮に今、液面より下に位置する液体内部に、周囲よりは運動エネルギーの大きな分子が集まり、周囲の分子を押しのけて小さな気泡を作ったとする。
この場合出来た気泡には内側から蒸気圧がかかり、外からは外気圧がかかっているが、もし蒸気圧が外気圧より小さければ気泡は液体中に存在できない。

だが蒸気圧と外気圧が等しい状態になると、発生した気泡は液体内に存在することが可能となり、液体よりは密度の小さい気泡は浮力によって液面へ上昇した後、大気中へ放出されることになり、「沸騰」が始まるとその液体温度は一定温度を保ち、蒸気圧はそれ以上上昇しないことから、蒸気圧が大気圧を超える事はなくなる。

                           「湯を沸かす」・2に続く