「ケチの極意」・4 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2019/06/14 05:45

「実はそれを理由に逃げてはいないかしら」
「勿論病気や体の都合が悪い人もいる、でもそれでも何もできない訳ではないわ」
「だからお金が有ったらあれもできる、これもできると思っている人は結局何も出来ない、としたらまだ取りあえずお金を欲しいと思う人の方が一歩進んでいるものなのよ」

「そしてね、お金を貯めてそれで豪邸を建て、綺麗な服を来て美味しいものを食べて、好きな男、女を手に入れる」
「でも心は満たされないわ」
「誰も信じられないからよ」
「お金で買ったものは、それがお金で買ったもので有るが故に、自分で人を疑うのよ」
そして人より優れていると言う、その気分の為にそうしているの」
「結局貧しい人と同じなのよ」

「物は氾濫だから常に新しく良い物が出てくる、どれだけ買ったとしてもそこには際限が無く、男も女も同じよ」
「お金で何とかしたものはどこまで行っても愛が得られないように思ってしまう、たとえそこに本当の愛があったとしてもそれには気づかない」
「そしてまるで餓鬼のように物を買い、人を求めるの」
「これが人間の浪費と言うものなのよ」

「だから一番のケチは物を買わない、人を求めないことなのね」
たった一人でも、自分が丸裸でも良いと思ってくれる人がいればそれは素晴らしい、でもみんながみんなそうは行かないし、だから物や人を集めたがる」
「お金や地位や名誉、高級外車や高学歴、こうしたものは人間の装飾でしかない、でもそうしたものが有れば愛や豊かさをえられると思ってしまうのね」

「もうそろそろ日が沈むわね・・・」
「あんた、あんたを本当に好きだと言う人を探しなさい」
「そしてケチをしてお金を貯めて、その人のために使いなさい」
「目標のないケチはただの餓鬼でしかないわ」
「何も買わずに済むように、本当に自分を愛してくれる人を探すのよ」
「高いものが食べられなくても、一生かかってもそう言う人を探して、死なない程度に生きるのよ、それがケチの極意よ・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「あっ、もう時間だわ、本当はね、あんたちょっとイイ男だったから実は今年の抽選、わたし不正をやったのよ」
「で、死んだらその魂は私のところに来るようにしておくからね、早く来てね」
「それって、早く死ねって言う事ですか・・・」
「あんた、その細かいところがイマイチね、細かいことを言う奴はケチには向かないわよ」

「じゃ~ね~、元気でね・・・」

太陽が沈むまさに一瞬、僅かにその光を増したように見えた瞬間だった。
さっきまでベンチの隣に座っていた、若作りだが結構な年齢であろう女の姿は既にそこにはなく、辺りはすっかり闇が被って来ていた。
佐藤は暫くそのままベンチに座っていたが、やがて立ち上がると、さっきまで女が座っていたベンチをぼんやり眺めていた。
「ケチの極意か・・・」
「神様、有難うございました・・・」

※ 本文は2010年、yahooブログに掲載した記事を再掲載しています。