2019/06/22 11:12

どうも犯罪や事件、それに不思議な事と言うものは流行があるようで、1件の事件が起こると立て続けに同じ事件が発生し、そして翌年にはまた違った事件が流行したかと思うと、以前流行した事件は忘れられて行く。

昭和42年(1967年)、初めて森永製菓がチョコボールの販売を始めた年だが、この同じ年と翌年の昭和43年、不可思議な少女失踪事件が4件発生し、その内2件はいたずら目的の模倣犯であることが判明したが、最初に発生した事件と次に発生した事件については不可解な事が多い。

だがこうした事件であっても幸いな事だったと思うのは、失踪した少女達はいずれの事件に付いても4ヶ月後、半年後に発見され家に戻れた点にある。
この辺の有り様を鑑みるに、簡単に人の命が奪われてしまう現代社会の不健全性があぶりだされ、事件と言えども、時代によってそこに一定の人間性やモラルが存在する事を理解出来るのかも知れない。

昭和40年代と言えばデパートが最も発展し始めてきた頃だが、高田良子さん(仮名26歳)はその日、娘の知子ちゃん(仮名4歳)を連れて京阪神電鉄に乗り、梅田のデパートへ出かけた。
良子さんは専業主婦だったが、もともと何も買わなくてもデパートの中を歩くのが好きで、こうして時々時間が有れば娘を連れ、比較的交通の便があるこの梅田のデパートを訪れていた。

その日も知子ちゃんと手を繋いでデパート内を歩いていた良子さんだったが、やがての事知子ちゃんがおしっこに行きたいと言い出す。
「仕方ないわね」、良子さんはちょっと考えたが、やがて知子ちゃんを連れて呉服売り場まで歩いて行った。

後に警察が良子さんに事情を聞いたとき、何故知子ちゃんを男子トイレに連れていったのかを尋ねられた良子さんはこう答えている。
「デパートの女子トイレは数が少なく、いつも行列ですねん」
「それで呉服売り場に行けば、昼間から呉服売り場にいる男などいやしまへんによって、呉服売り場の男子トイレが一番すいてまんねん」

と言う事で、知子ちゃんを呉服売り場の男子トイレに連れてきた良子さんは、知子ちゃんを男子トイレの大便用のドアの前まで連れていき、そこで用を足すようにと中に入れ、自分はその男子トイレの入口付近で知子ちゃんを待っていた。

しかし知子ちゃんは中々出てこない。
「遅いわね・・・」
3分、5分と時間が経った気がしたが、一向に知子ちゃんはトイレから出て来る気配が無い。
さてはうまくできなくて洋服か下着を汚してしまったかな・・・、そう考えた良子さんは、さっき知子ちゃんを入れた男子トイレの前までやってきてドアを開けようとしたが、おかしな事にさっきは鍵をかけなかったはずなのに、何故か今度は鍵がかかっていた。

4歳の知子ちゃんが鍵をかけたとも言えなくないが、そもそもそうした習慣のない知子ちゃんが今に限って鍵をかけるとも思えず、良子さんは仕方なくドアの前で知子ちゃんの名前を呼ぶ。
「知子、知子、どうしたの」
はじめはそう必死でもなかった良子さんだったが、どうも中に人のいる気配が感じらず、「シーン」と静まり返ったトイレ内の気配に慌てた良子さん、最後は絶叫に近い声で娘の名前を呼ぶも、恐ろしいくらいの沈黙が続くだけだった。

そしてこうした良子さんの叫び声を聞きつけたデパートの係り員に、取りすがるように今までのいきさつを説明し、何とかトイレのドアを開けてくれるように頼む良子さん。
やがて別の係員がトイレの鍵をドライバーでこじ開け、ドアを開いた瞬間だった。
何とそのドアのすぐ内側には丸裸の女が笑って立っていたのである。
「ぎゃー」と叫んだのは今度はデパートの係り員だった。

しかし良く見るとその女は笑ったまま全く動かない。
そればかりか、さっきまでは裸の女と思っていたが、それはデパートの売り場で良く見かけるマネキン人形だったのである。
その上どこをどう探しても知子ちゃんの姿が見つからない。

デパートの係員たちと良子さんは他のトイレのドアも全部開けて見たが、どこにも知子ちゃんの姿は無く、またこのトイレの入口は一つしかなく、従って誰かが出入りすればまっ先に良子さんが見ているはずだが、良子さんの前を通った人間は一人もおらず、デパートの店員も誰も知子ちゃんらしき子供を見かけた者がいなかった。

知子ちゃんはこの瞬間を最後に消えてしまったのである。
やがて警察も駆けつけ、デパート内をくまなく捜索したが、やはり知子ちゃんは見つからない。
結局知子ちゃんは誘拐された可能性が高いと判断した警察当局は、少女誘拐事件として本格的捜査を開始したが、1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎても身代金の要求もなければ、知子ちゃんに関する手掛かりも全くつかめなかった。

落ち込み憔悴したのは良子さんだった。
毎日のように梅田のデパートへ出かけ、知子ちゃんを探す日々が続いたが、知子ちゃんの父親である高田清彦さん(仮名・29歳)も知子ちゃんがいなくなってから毎晩奇妙な夢にうなされ続け、その夢は決まって薄暗い穴の底で助けを求める知子ちゃんの夢だったのである。

憔悴した妻を安じ、毎晩奇妙な同じ夢を観る話を良子さんには語らなかった清彦さん、しかし意外にもこの夢の話を最初に打ち明けたのは良子さんだった。


「笑うマネキン」・2に続く