2019/06/22 11:13

何と2人は毎日同じ夢を見ていたのだ。
「これはおかしい、何かあるに違いない」
そう思った清彦さんと良子さんは、ある日大阪南の繁華街で結構評判になっていた占い師に相談してみることにした。

「あんさんには男の死霊が憑依てなさるで」
「丸刈り頭の40くらいやろか・・・、それと娘さんの事は心配せーへんでも大丈夫や、半年したら帰ってきよるで・・・」
清彦さんは呆然とした。
その少し白髪の混じった顎鬚を生やした占い師は、清彦さんが前に立っただけで、何も語らぬ内からそう話し始めたのである。

「それとな、お宅には井戸が有るんやないか・・・」
「いえ、そんな井戸はあらしません」
「そーかー・・・」
占い師はそう答えたが、毎晩薄暗い穴の底から助けを求める知子ちゃんの夢を見ている清彦さんは、どこかで井戸には引っかかるものがあった。

だが占い師の半年したら帰って来ると言う話は、どこにそんな根拠があるのか分からないが、それでも何も言わずとも自分の悩みをしっかり見抜いた占い師の言葉だ、何かしら力が湧いてくる気がしたものだった。

そして9月初めの事だった。
もうそろそろ知子ちゃんがいなくなって半年が経過しようとしていた頃、良子さんの妹の和代さんが、見舞いがてら生田にある良子さんの家を訪ねたおり・・・。
良子さんの家は角をまわったその先にあったのだが、和代さんはそこで前を歩く40歳くらいの痩せた男の姿を見かけ、何とその後ろには知子ちゃんらしき4歳くらいの女の子が、トボトボと後を付いていくのを見かける。

「あら、あれは知子ちゃんじゃないの、良かったきっと見つかったのね」
和代さんはそう思って2人の後をついて行ったが、男と知子ちゃんはやがて高田家の前まで来ると玄関を開け、何も言わず二階へ上がり込んでいく姿が見えた。

2人の後を追うように姉の家にたどり着いた和代さん・・。
「お姉ちゃん、良かったわね」
久方振りに姉に会う和代さんは開口一番姉の良子さんにそう言ったが、何故か良子さんは困惑したような表情で、まだ知子ちゃんは見つかっていない事を和代さんに告げる。

「そんなはずないわよ、さっき私の前を歩いていてこの家に入って行ったんだもの」
「二階に上がって行ったのを確かに見たのよ」
和代さんは今しがた見かけた光景の事を詳しく話して聞かせたが、姉は信じない。
では2階へ上がってみようと言うことになり姉妹は2階へ上がったが、そこには誰の姿も無かった。

そして翌日の事、まだ知子ちゃんが見つかっていない事を知った和代さんは、姉の良子さんを慰めると早々に実家に帰ろうと準備をしていた時だった。
玄関に2名の警察官が訪れ、知子ちゃんが見つかったことを知らせに来たのだった。

知子ちゃんはいなくなった時のトイレでうずくまっているのを、デパート店員によって発見されたのである。
髪はボサボサ、洋服は薄汚れ、見つかった時は目の焦点が合っていない状態だったが、それは紛れも無く知子ちゃんだったのである。
だが警察官達が知子ちゃんに今までどこに行っていたのかを尋ねても、彼女はそのことに対する記憶を失っていて、話はさっぱり要領を得ないものだった。

後日談になるが高田さんは敦賀の出身で、知子ちゃんが3歳の時に実家で呉服商を営む父親が亡くなり、三男だった彼は母親から形見分けで適当な家が有ったら買ってやると言われ、それで生田の当時の家を購入したのだが、この家は凄惨な殺人事件があった家で、格安になっていた事を知らなかった。

またその家の庭にはむかし井戸が有って、それも事件後に埋められていたのだが、ちなみに正確な記録は残っていないが、実はこの事件で知子ちゃんが失踪したデパートのトイレには、この以前、数ヶ月前にも同じように8歳の女の子が失踪していて、彼女もやはり半年後、同じデパートの失踪した時のトイレから発見されている。

ただこの女の子が、知子ちゃんが住んでいた家と同じ家に住んでいたかどうかの記録は残っておらず、知子ちゃんが失踪したのは、高田さん夫婦がこの格安の家に引っ越してきて3ヶ月後のことだったようだ・・・。