2019/07/05 17:24

紀元前の昔から、ケシの実から採取した阿片(アへン)に麻酔、鎮痛効果が有ることは知られていたが、ケシの実が未熟な時期に傷を付け、そこから沁み出す乳液を乾燥させたものが阿片であり、医薬品と言うものの流れを鑑みるなら、自然に存在する植物や動物、鉱物などを直接疾患治癒に利用する方式の薬を「生薬」とし、そこから加工、成分抽出へと展開して行くことを科学、薬学の進化とするなら、阿片は最も端末の「生薬」で有り、最も初期の「医薬」と言う事ができる。

そして1804年、ドイツの「フリードリッヒ・ゼルチュルナー」(FriedrichSerturner)によって阿片から初めて「モルヒネ」が抽出され、これが人類が初めて手にする「アルカロイド」となるのであり、「モルヒネ」の語源はギリシャ神話中の「眠りの神」、「モルフェウス」に由来する。

また古くから「生薬」としては認知度の高い、「カワヤナギ」、この樹皮には「解熱効果」が有ることが知られていたが、これも19世紀の中期、「解熱作用物質」が「サリチル酸」に有ることが判明してきた。
しかし「サリチル酸」はそのまま服用すると胃腸に障害が発生する。

それゆえこの「サリチル酸」の酸性を稀釈する事が考えられ、アセチル化して胃腸に対する副作用を抑制したものが「アセチルサリチル酸」であり、ドイツのバイエル社がこれを「アスピリン」として発売後、世界的な知名度を得るが、アスピリンは解熱効果もさることながら鎮痛剤としても、更にはリュウマチの症状にも効用がある。

一方「薬」を開発する上で、それに対峙する病気の原因の研究も進められてきたが、病気の因子となる「微生物」の発見も為され、こうした微生物が病原となる症例を「感染症」と言い、「近代細胞学の開祖」と謳われた「ハインリッヒ・ヘルマン・ロベルト・コッホ」(Heinrich Herumann Roberte Koch)、彼によって炭疽菌、結核菌、コレラ菌が発見され、こうした細菌の発見が有って、感染症の原因が細菌で有ることが知られるようになった。

また、このような感染症の防止を臨床の立場から実践したのはイギリスの外科医「ジョセフ・リスター」(JosephLister)であり、彼は1865年、外科手術の時、それまで化膿する事が多かった傷口をフェノール水溶液で洗浄する方法を発見し、これによって術式後の化膿を防止する方法を開発した。

以後、同じ化膿抑止効果としてはフェノール液より毒性の少ない「クレゾール」、「エタノール」が怪我の消毒薬として普及してくるが、エタノール、フェノールは細胞内部まで浸透し、細胞のタンパク質を変質させ、この事が細菌の活動を失わせる為、殺菌効果が発生する。

そして1935年、ドイツの「ゲルハルト・ドマーク」(GerhardDomagk)は全くの偶然からアゾ色素の一種、「赤色プロントジル」が細菌の増殖を抑制し、なおかつ副作用が全くない無い事を発見するが、「アゾ色素」とは合成物質である「芳香族アゾ化合物」のことであり、この化合物は色素として染色などに用いられる物質で、色素自体には殺菌作用はないが、これが体内で分解され「スルファニルアミド」(スルファミン)が生じることによって細菌の増殖が抑制される。

スルファニルアミドは細菌が増殖するために必要な「αアミノ安息香酸」と構造がよく似ていることから、細菌の「葉酸合成酵素」に誤って吸収され、その結果細菌の核酸生成を妨げる結抗阻害を起こし、増殖が抑制されるが、ドマークの発見以来多くの「スルファニルアミド」の誘導体が作られ、これらを総称して「サルファ剤」と言い、化膿性疾患、敗血症など感染症治療に用いられた。

なお、このサルファ剤の発見は、1929年にイギリスのフレミングによって発見された「ペニシリン」より後に発見されているが、ペニシリンが実用製造され始めたのは1940年以降であり、それまではサルファ剤が使われていた。

しかしペニシリンが市場に出回ってくると、サルファ剤が効果を発揮しない細菌にまで効果を発揮したことから、一挙に普及し、更にはこのペニシリンからそれまでの概念とは異なる「微生物が生産する物質によって、他の微生物の生成を阻害する」と言う概念が発生してくるのであり、こうした薬品を「抗生物質」と言い、これが現代薬学の最先端の始まりとなっていく。

1944年、アメリカの「セルマン・エイブラハム・ワクスマン」(SelmanAbrahamWaksman)は土壌の中に存在している「土壌菌」の一種が作り出す抗生物質を発見する。
「ストレプトマイシン」と名付けられたその抗生物質の語源はその菌の学名どおり、「放線菌」であるが、この抗生物質はペニシリンが効かない細菌にも効力が有る代わり、聴覚障害の副作用がある。