2019/07/05 17:25

薬には大別すると2種の考え方が有り、流れが有る。
一つは病気の症状を緩和し、体が自発的に病気を治療する方向に持っていく事を助ける概念、いわゆる「自然治癒力」を促す「対処療法薬」、そしてもう一つはペニシリンなどの抗生物質に代表される、病気の因子に直接作用する「科学療法薬」の概念である。

昔から存在する「カワヤナギ」などの解熱、鎮痛剤、または胃腸薬などは「対処療法薬」であり、その上に抗生物質などの「科学療法薬」が乗っていて、まるでこれらは何かの進化のようにも見えるが、その実この両者の考え方には「流れ」と同時に、どちらが先端なのか迷う部分がある。

感染症治療に広く抗生物質が用いられるようになると、今度はその抗生物質が効かない細菌が発生してくる。
だがその一方で抗生物質の分子構造を一部変化させて誘導体を作ると、それは以前の抗生物質に耐性の有った細菌にも効果が現れ、この事を「科学修飾」と呼ぶ。
「セファロスポリン系抗生物質」などは泥の中に存在するカビから発見されたもので、セファロスポリンを微生物に作らせ、一部の置換基を「科学修飾」して作られた合成ペニシリンであり、今日多くの感染症治療に用いられている。

同じように土壌のカビから発見された「オーレオマイシン」なども、スピロヘータ、リケッチアなど複数の病原微生物に効果が有るが、これも4個の「六員環」を持つ類似化合物が作られていて、「テトラサイクリン系抗生物質」と呼ばれる「抗生物質群」に発展し、現在でも多くの感染治療に用いられている。

「テトラサイクリン系抗生物質」はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)にも有効だが、現在最強の抗生物質である「バンコマイシン」に対しても、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)が出現し、この意味では抗生物質によって仕掛けた人間の戦争が、細菌と人間の間で永遠の泥仕合に発展しそうな勢いである。

お互いに少しずつ形を変えながら、進んで行くのか、それとも元の形を無くするのかは分からないが、多種多様に変化していく抗生物質と細菌。
これに対する人類の対処方法は抗生物質に頼らない事、掃除をし手洗いを励行する事、うがいなどの習慣を付けると言った具合で、非常に古典的対処しか方法が無いのである。

微生物を同じ微生物を使って退治しようと考えた人類の英知は賞賛に値する。
だがしかしその発見された多くの有効な微生物の発見過程が「偶然」によるものであり、しかもそれは土壌の中、この大地から発見されている。

我々は進もうとしているのか、それとも戻ろうとしているのか、一体どこへ行こうとしているのだろうか・・・。