2019/10/22 18:05



一方、人類はその経験から水分が多く含まれる食品は腐敗しやすい事を経験から知っていた。
そのため合成添加物を加える事なく食品を保存する方法を持っていたが、その基本的なものが塩を用いる方法である。

タンパク質の周囲には3つの水分子が存在していて、水素結合によって食品に強く束縛され、熱運動を制限された状態の「束縛水」が10%、ゆるく水和し、熱運動がやや遅い「結合水」が80%、一番外側に有って自由に熱運動をしている「自由水」10%であり、この内微生物が繁殖出来るのは外側の「自由水」だけである。

そして食品の「自由水」は、「その食品の示す水蒸気圧」を「その食品の飽和水蒸気圧」で割ったもので求められ、これを「水分活性値」と言い、この水分活性値が大きい程微生物の活動は大きくなり、腐敗速度が早くなる。
通常水分活性値が0・93以下になると細菌が繁殖しにくくなり、0・86以下ではカビが繁殖しにくくなってくる。
水分活性値が0・94になる塩分濃度は10%の食塩水濃度であり、これがシュ糖濃度では48%の濃度である。

つまり塩分や砂糖の浸透圧を使って食品中の水分を減少させ、その事から微生物の繁殖を抑える事は、科学的にも最も合理的な食品の安定保存方法なのであり、この逆の発想が「乾燥」で有り、「薫製」の原理だ。
魚や肉を煙で燻す場合、燻煙の中にはポリフェノール類を始めとする殺菌力と抗酸化作用を有する物質が含まれ、これが浸透して腐敗や酸化を防いでいるが、この方法の基本原則は「乾燥」による保存性の向上である。

また一般的に細菌はPH4以下では繁殖しにくく、低級有機酸ほど微生物繁殖作用を抑制する効果が高い。
従って酢酸やプロビオン酸などが絶大な効果を表すが、酢を使えない一般食品にこの効果を期待するなら、酸性保存料の「安息香酸」「ソルビン酸」などを用いると良い。

この他人体に有益な微生物の繁殖を助け、その事によって有害な微生物の発生を抑える方法が「発酵」であるが、通常発酵食品の定義は酢やアルコール、醤油や味噌を除いたチーズ、納豆、ヨーグルトなどを指していて、余談では有るが私はこうした自然な流れの合理性に大変感動を覚える。

さてこうして食品添加物を見て来ると、特に合成添加物を鑑みるなら、どことなくそれが油脂類や肉類を基盤に発生しているような気がしないだろうか。
つまる所、我々が食品の中で占めている肉類や油脂類の消費の多さ、これが食品添加物の使用量を高めている事になり、これはいわゆる太平洋戦前後を挟んで急激に変化した、日本の欧米型食品指向性と共に発展してきたものだと言う事で、その意味では食を通しても日本は「日本」と言う民族性を失い続けてきた現実が有るように思える。

肉類は食品として保存する場合、結構厄介なものであり、第1章で述べた食品の変質の原因、腐敗と酸化以外にも、例えば肉の中に含まれる酵素はタンパク質を徐々に分解していく事から、微生物がいなくても自分で自分を消化する機能「自己消化機能」を持っている。

その為に肉類は食品の保存の一つの方法である「低温冷凍保存」をしても、微生物や自己消化を遅延させるだけで、それを防止出来ない。
この事から肉類はそれが生産される時から保存されるまで、全てにコストのかかる食品であり、大変効率の悪い食品なのである。

また冷凍と逆のエネルギーを使う「高温」、「加熱」の処理だが、これによって確かに微生物のタンパク質は死滅するが、一時的な状態であり、新たに空気や水分などから食品に入り込んだ微生物の繁殖を抑える事は容易では無い。

食品はそれが生産されるコストはそんなに高いものではない。
しかしそれが保存され、安定して供給されるシステムに金がかかっているのであり、東京で水槽に活かされたままのヒラメを食べるのと、塩漬けの鯖を食べるコストの差は説明する必要がないだろう。
美味しいものを安定していつでも食べられる、この事は決して褒められた事とは言えないと私は思う。

古くから日本で発展してきた「塩漬け」、「酢漬け」「薫製」などの方法は極めて合理的実績のある腐敗防止法、酸化防止法である。
これらの消費が減少し油脂類、肉類に移行して来た日本の食生活、或いは世界の食生活のコスト削減は、地球温暖化を声高に唱える先に自身一人一人ができる、いや、やらなければならない改革と言えるのではないか・・・。