2019/11/14 22:14



兼ねてより念願のBMWX1を購入する事にした高木さん(仮名42歳)、早速ディーラーの超低金利ローンを組むことにし、書類に記入を始めたが、担当者は何気なくこんな事を尋ねた。

「高木さま、一応念のためなのですが、不動産などの資産はお持ちでしょうか・・・」

 

「はあ、数年前に両親が亡くなり、田舎の家と山林を相続しましたが、それが何か?」

高木さんは両親がなくなってから故郷で400坪の土地、建築面積200坪の実家と、4haの山林を相続していたが、もしかしたら担保にでもしてくれと言うのだろうかと、一瞬不安になる。

 

だが事態は高木さんが考えた以上に深刻な方向へと進んで行った。

「高木さま、申し訳ございませんが、当社のローンが使えない恐れが有りますので、審査が必要になりまして、4、5日お時間を頂けますでしょうか・・・」

と、言う事になってしまったのである。

 

これには流石に温厚な高木さんも思わず声が大きくならざるを得ない。

「えっ、どうしてですか、不動産を持っていたら信用でも落ちるのですか!」

 

「高木さま、申し訳ございません」

「ここだけの話なのですが、現在当社では人口5万人以下の地方市町村で所有される資産は「未必債務」に換算されるのです」

 

「未必債務、それは何ですか初めて聞きますが?」

訳が解らない高木さんは若干怒り気味でディーラー担当者に詰め寄るが、それに対し弱ったなと言う顔で担当者が説明を始める。その内容とはこうだ・・・。

 

現在人口5万人以下の市町村での土地取引は殆ど停止状態であり、税務上の評価額は存在しても買い手が誰もいない。

加えて住民の高齢化で資産である土地の管理も出来ない状態、草が生えてもそれを刈る事も出来ずに放置されたままになっている。

 

簡単に言えば、くれると言われても迷惑な状態までになってしまっていて、大きな家でも建っていようものなら、その撤去費用は最低でも200万円、場合に拠っては500万円かかり、台風などの災害で屋根の部材などが飛んでいくと危険な事から、行政から管理徹底以来が頻繁にやってくる。

 

この管理維持費用が年間30万円とすると、10年間売れなければ300万円、後になればなるほど管理費用は高額なっていく。

200坪の家屋は所有しているだけで、将来500万円の撤去費用が確実に必要となり、プラス10年間所有したら300万円が必要になり、合計が800万円の支出となる。

 

しかも唯で貰ってくれと言われても、それを管理することもできない状態では買い手はいない。

一度所有してしまうと生きている間は絶対逃れらず、子供にも同じ迷惑をかけていく事になる。

 

それゆえ高木さんの場合、預貯金が200万円、それを頭金にしても300万円ほどはローンを組むとして、これだけなら仕事もしているから何の問題もないが、5年間のローン返済中、例えば4年目に田舎の家に倒壊の恐れが出て、それを行政が代位執行した時、撤去費用の500万円は一時払いで4年目にやってくる。

 

加えて年間30万円ほどの維持費用が4年で120万円、200坪の家に火災保険を付けたなら年間20万円ほどだが、災害に被災しなければ保険金は出ない。

何も考えずにいると10年間で1000万円が消えて行き、これが「未必債務」と言うものなのである。

 

つまり高木さんは都会の感覚で資産は価値と思い、喜々として相続したかも知れないが、田舎の資産、人口5万人以下の市町村に所在する資産は、それを相続しただけで借入金が全くない人に、500万円から1000万円の将来確実な負債が発生したものと見做される訳である。

 

担当者の説明にがっくり来た高木さん、これまでに延滞のない高木さんは何とかローンこそ通ったものの、田舎の資産に火災保険を付けて年間20万円、管理維持費30万円の合計50万円の年間支出増となり、加えていつ撤去費用の500万円が必要になるか解らない状態で、毎月5万円、ボーナス月10万円のローンを支払って行く事になった訳である。

 

さてこの話は完全にフィクションであり、「未必債務」も私の造語だが、気が付けば金融関係の書類には「未必債務」と言う文字が一般的になっている日は、そう遠くないような気がする。

何より田舎では既にそれが現実になってきている・・・。