2019/12/03 20:58



微生物が有機物を分解する現象の内、人間に有用なものを「発酵」、そうでないものを「腐敗」と呼び、基本的に両者は同じもので有る事は以前にも書いたが、酵母菌、主に子のう菌の一種だが、この働きでグルコースがエタノールと二酸化炭素に分解される事、これを「アルコール発酵」と言う。

従ってアルコール発酵の場合、主原料にグルコースが含まれるか、或いは分解して「糖」に変える作業、これを「糖化」と言うが、まずそうした作業を行わなければ「アルコール発酵」ができない。
この点で同じアルコールである「ワイン」の主原料「ブドウ」にはグルコースが含まれ、ビールの主原料で有る麦、日本酒の主原料で有る米は共に「デンプン」である事から、ワイン製造には「糖化」の作業が無く、ビールや日本酒の醸造にはデンプンの「糖化」と言うひと手間が必要になる。

ビールの場合大麦を水に浸して発芽させ、これを乾燥して粉砕する作業がまず最初に必要で、この段階を「乾燥モルト」(乾燥麦芽」と呼び、乾燥モルトに大体2倍くらいの水を加え、65度前後に温めると、麦芽の中に有る強力な「アミラーゼ」が数時間でデンプンを糖化する。
この中へホップを加え、ろ過したものを「麦汁」と呼ぶが、何故ビール製造にホップが必要かと言うと、独特の苦味、そして香り、保存性を向上させるために使われるのであり、クワ科のつる性植物で有るホップの雌花を乾燥させたものが使われている。

そしてこうしてできた麦汁にビール酵母を加え、10度前後の温度で10日程発酵させる、これが「主発酵」で、「主発酵」が終わったら、その上澄液を5度前後の温度で3ヶ月程発酵させる。
2度目の発酵は「後発酵」とも呼ばれるが、この作業が終わるとビールの完成である。
後は遠心分離機で酵母菌を除去し、この段階で出荷されるものを「生ビール」、更に65度前後の温度で20分加熱して殺菌したものを「ラガービール」と呼ぶ訳である。

ちなみに日本酒の場合はデンプンの糖化に「麹カビ」のアミラーゼを用いるが、蒸した白米に「麹菌」を加え、30度くらいの温度で2日間ほどで「麹」が出来上がる。
容器の中へ水、乳酸、麹、蒸した米を入れ、この中で酵母菌が培養されるが、この段階を「もと」と言い、「もと」に更に蒸し米、麹、水を数回加え、15度くらいの温度で20日程保つと出来上がるのが「醪」(もろみ)である。

(もろみ)を絞って酒粕と分離された状態の液体を「濁り酒」、或いは「白酒」と呼び、この濁り酒を暫く静かに置いておくと、やがて透明な上澄み液が出来上がり、これを「清酒」と呼び、60度の温度を加え殺菌し、数ヶ月熟成させたものが「日本酒」である。

またワインの場合、主原料の「ブドウ」にはグルコースが含まれているので、酵母菌を加えるとすぐに発酵が起こる。
ブドウの実を皮が付いたまま砕いて果汁にし、そこに「亜硫酸塩」と酵母菌を加えると、約1週間ほどで発酵し、これが主発酵になる。

その後ブドウの皮や種などの固形物を取り除き、もう一度発酵させ、これが終わったら酵母菌などの沈殿物を除去し、上澄液を樽に詰めて熟成させた後、もう一度亜硫酸塩を足してろ過し、瓶に詰めると高級かどうかは分からないが「赤ワイン」の出来上がりである。
「亜硫酸塩」はブドウの色素が褐色変質して行くのを防ぐ作用が有る。