2020/03/17 06:25
「nationalism」(ナショナリズム)の語源である「nation」(ネーション)はラテン語で「natio」(ナティオ)、つまりは「生まれ」にその起源が有り、出生、出自の女神を指すと同時に家族よりも広く、氏族、部族よりは狭い範囲の「同じ生まれに帰属する者」と言う意味を持っていたが、この範囲が「場」に有るのか、それとも血縁に有るのかと言えば、それが重複された形で、どちらかと言えば「場」の方に多くの意義を持っていた。
従って「natio」は元々血縁が重視されたものでは無く、1380年代パリやボローニャの大学でも「natio」と言う言葉が使われたが、ここではカレッジの構成員と言う共通性、地理的な繋がりを指していて、これが中世後期、近世ヨーロッパに至るに付け国家の案件に同意することができる身分制議会の発生と共に、特権階級の事を指すようにまで拡大されて行った時点から少しずつ矛盾を孕んでくる事になる。
ラテン語の初期、「natio」と共に、どちらかと言えば血縁、言語同一性、文化的同一性を重視した「同じ生まれに帰属する者」の概念に「gens」(ゲンス)と言う言葉が有り、これは本来文書的には区別できないものの、その意識の中では「natio」とは決定的な区分が存在していた言葉で、「地」と「血」の区別が有ったが、「natio」が近世ヨーロッパで特権階級の概念にまで拡大されると同時に、王や国家と国家運営を共有する者たちの中で同じ言語、同じ文化、思想が形成されて行った事から、ここに「地」と「血」が交わる、つまりは「natoi」は「gens」を包括して行ったのである。
またイングランドを例に取って見れば解るが「薔薇戦争」で没落していった貴族階級に変わり、その下の身分の者たちが貴族社会へ参入するに当たり、言い換えれば国王の政治が民主化する過程で、「natio」では結束が保てず、「gens」(血)を表に出していく事で結束が発生して行ったが、この基本概念はユダヤ教のヘブライ人を思想モデルにしている。
同じ一つの宗教、言語と共通した歴史認識を持ち、特定の場から発展する事はないが、「他」を特異なものとしてでは有っても、その存在を許容する「自」が存在する。
この概念が現代社会の「natio」、所謂「nationalism」(ナショナリズム)の概念であり、ここに「nationalism」の基本は国家運営の参加権付与が基本になる事から、主権が付与されることを条件とする漠然とした暗黙の約束が存在してくる。
従って「nationalism」の概念が有って始めて、主権在民の思想が成立していくのである。