2020/10/01 17:18

2014年10月30日、第一次安倍内閣で官房長官を務め、その後財務大臣も経験した与謝野薫(よさの・かおる)氏が奇妙な理論を展開していた。
消費税10%増税の予定通りの実行と日本銀行の金融緩和政策の批判だったが、財務再建を日本の存亡に拘るとして、これを金融緩和に依存する事の危機を説いたものだが、欧米の高い消費税の在り様を引き合いに出したものの、欧米が目指している小さな政府や行政、議会議員のボランティア化と言う片方の重要案件が抜けていた。

つまり財政再建の要を消費税増税に依存しようとするものだが、これ自体が金融緩和政策と同じレベルの危うさを持っている。
市場原理は利益によって発展が形成され、例えば生産者が何かを生産し、或いは誰かが何かを買った場合、それに拠る取得や生産の利益が発生し更に売買する事で利益が出る、叉は誰かが損失を被る事で誰かが利益を得る。

このように利益の発展性が存在して市場が成り立っているが、税金のそれは基本財源が生産でも売買でもなく、国民の負担と言うマイナス要因であり、更に国家や行政は利益を追求する組織ではないから、その集められた資金は、税が課せられる仕組みが出来た時点から、未来に及んで消費されるだけなのである。

一方日本銀行の金融緩和政策は経済の気分的高揚感であり、江戸元禄時代でも一枚の小判の金の含有量を減らし、それによって2枚の小判から3枚の小判を作る政策が為されたが、それ以後100年に渡って日本は貧困から抜け出せず、最後は明治維新を迎える。
金融緩和は今現在所有している資産価値を見かけ上膨らませる効果が有るが、実体が伴わねばその損失は「半沢直樹」のように倍返しとなる。

通貨の信用失墜と価格高騰に拠る国民生活の困窮と言う往復ビンタとなって帰ってくるが、与謝野氏も日本銀行も消費税増税と言う点では一致し、その改善策の方向は相反するが、どちらも破綻に向けたものである。
アメリカが金融緩和政策を終了したこのタイミングで日本銀行が大幅な円の金融緩和を行えば、円が暴落状態になる事は誰でも予測でき、これによって日本へ株資金が流れ込む事により日本の資産は国内的には一時高騰した形になり、このタイミングだけを見れば日本経済は回復したように見えるかも知れないが、効果の持続性は非常に短い。

消費税を上げる為にこうした見せ掛けを行えば、その後発生してくるものは悲惨な現実である。
食料ですら自給率40%以下、その60%が輸入に頼っていて、工業生産品原材料に至っては90%以上が輸入調達の日本の円の失墜、値下がりは金融緩和によって得られる利益を相殺して更に倍の損失を発生させる。

事実第二次安倍政権発足後の経済対策により、国民生活はその以前のデフレ経済より遥かに困窮しているし、デフレーション回復どころか、元々均一性の有ったデフレーションが少数の利益者と多数の困窮者に分化し、その深さが深くなっただけである。

与謝野氏の発言も間抜けだが、それよりもっと重要なのは日本銀行の今回の大幅緩和措置であり、これは事実上「政府や大手企業を優先し、これをして経済を判断しますよ」「国民生活の事は放棄しましたよ」と言っている事になる。
企業の実質輸出収益が金融緩和政策によって予測された伸び率を大幅に下回り、物価は上昇しても賃金は上がらず、デフレーションは深化する。
その上に消費税増税は先に発生してくる事は目に見えている。

市場経済は市場の自由性によって発展する形が基本だが、世界各国とも国家維持のために市場経済に介入し過ぎている。
元々政治は調整がその主たるものだが、市場に現実的矛盾が発生した時、それを制度で改善するのが本来の有り様であり、これを政府が主導して経済を牽引するのは、扶養してる子供に商店主が販売の仕方を指導されているようなものだ。

政府行政の財源は働いて得た収益ではなく、国民から集めた苦労の無い金であり、先には消費しか存在しないものだ。
こうした現実的苦労の無い人間が、どうでも良い金を使って為せる事は破綻しかない。
子供を産み育てると言う巨大事業をしている夫婦、家を建てようと頑張っているサラリーマン、建設現場で汗を流す作業員、スーパーで働く女性、彼等彼女達こそが生産をしている者であり、この国家を維持している中核である。

こうした者達を困窮に追い込んで、その上に増税と物価上昇で疲弊させるより、まず行わなければならないのは苦労の無い金でどうでも良い事に未来まで食い潰す国会議員、地方議員の削減、若しくはその歳費の最低賃金化であり、国家公務員や地方公務員の給与削減ではなく、上限給与の生活保護費同額制度であり、その次に高齢者医療の自己負担増と年金の最低賃金同額支給化政策である。

国債を日本銀行が買い取る、事実上の政府による紙幣増刷は、過去の世界の歴史的経験からも破綻することが実証されている。
日本銀行はこれで以後の手立てを全て失った。
これ以後日本通貨の大幅緩和が繰り返されれば、消費増税を上回る景気低迷に拠る税収不足が発生し、海外から輸入される物資は高騰、それによって国内消費は更に低迷し、端末地方行政から経済破綻が発生してくる。

日本銀行の今回の大幅な金融緩和政策は、第二次安倍政権が既に調整機能として成立しない事、日本銀行が国民生活の全てを諦めてしまった事を意味している。


※ 本文は2014年11月1日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています。