「パズル」 | 古典漆芸技術 夏未夕漆綾

2021/03/12 18:53



少し前の事だが、田の水を見て家に帰ろうと県道を歩いていたら、もうすぐ家に着こうかと言うところで、道の真ん中に蛇が横たわっていて動こうとしない、遠くからは自動車のエンジン音が聞こえてきて、と言う状況に遭遇した。

 

体長60㎝ほど、シマヘビにしてはまだ若い、「今ここにいては死んでしまうぞ、せっかく生まれてきたんだから、もう少しこの世を楽しめ・・・」

私は心の中でそう呟くと蛇を掴んで近くの土手に逃がした・・・。

 

そして蛇を逃がした後で、「しまった、ここは家の近くだ、もしかしたら納屋のツバメたちがやられるかも・・・・」と思ったが、既に蛇は土手の藪の中に姿を消してしまっていた。

 

一週間後くらいだろうか、昼間、納屋の二階を仕事場にしている私は、階下でツバメ達が警戒している時に発する激しい鳴き声に階下の様子を見に行くと、なんでこんな所にと思わずにいられないドアのすぐ上に巣をかけていたツバメの、その巣を囲むように蛇が巻き付き、4羽いたヒナの内1羽は呑まれたのだろう、蛇の腹が大きく膨らんで、もう1羽は足が巣に引っかかって宙吊り状態、もう1羽は巣から落ちて近くに置いてある肥料の袋のそばで震えていたのだった。

 

「ああ、やはりやられてしまった・・・」

私は蛇を逃がした事を後悔しながら、蛇の首を掴んで巣から離し、今度は土手ではなく反対側の田んぼの方へ行ってもう一度逃がした。

 

長さと言い、模様と言い、私が1週間前に助けた蛇だった。

蛇を殺す事はたやすい・・・。

だが自身の一時の感情や価値観で一度決めた事を動かすのは、どうも自分が許せない。

 

蛇を逃がした後、宙吊りになっているヒナと土間に落ちてしまったヒナを巣に戻した私は、他のツバメの親たちが出入りしている窓から遠かった為、このツバメ達の為に少し開けていた渡り廊下の戸を閉め、もう蛇が入って来れないようにした。

 

だがそれから4日後の事だろうか、また昼過ぎくらいにツバメ達の警戒する鳴き声がこだまする・・・。

行ってみると2羽残っていたヒナの内1羽が既に半分ほど蛇に呑まれた状態、そしてもう1羽は行方不明だった。

 

やはり同じ蛇だった。

しかも閉めていた戸は開いた状態だったが、右半身が動かない父親が杖をつき乍らもリハビリのために外へ歩きに行って帰ったおり、やはり出入り口の窓から遠いこの巣を不憫に思い、近くの戸を開けていたのだった。

 

私はもうダメかも知れないなと思ったが、それでも蛇の頭を掴むと、どうにか半分呑み込まれたヒナは助け出す事が出来、蛇ももう一度田んぼ側の土手に逃がして家に帰ってきて、ふと下を見るともう1羽のヒナが今度は肥料の空き袋の陰で震えていた。

 

「良かった、お前も何とかなったか・・・」

指にしがみつくそのヒナも巣に戻そうとしたら、何とこの前2羽呑まれてしまったと思っていたが、どうやらもう1羽が巣の底に潜んでいて助かっていたらしく、小さな巣には3羽のヒナが不安そうな顔をしていたのだった。

 

私は何となく、ツバメ1羽が儲かったような気がした・・・。

 

またくだんの蛇もまだ未熟と言えば未熟だ。

鳥を襲う時は自身の天敵も少なくなり、鳥も寝ている夜に襲うものだ・・・。

それを昼間から襲う、その経験の無さに若さを感じてしまう・・・。

 

そしてこんな時、私は自身存在の罪と恐ろしさを思う・・・。

良かれと思って為した事でも、それが他の何かに対しては禍となる事も有り、この結末の全貌を全て知る事は出来ない。

 

自分が為した事「因」の結末「果」のすべては自身が見る事の出来るものが全てとは限らず、むしろ自身が知る事が出来るものの方が少ない。

 

にも拘らず、その瞬間自分が良い事をした思う満足感の為に、それまで動いていて、その先もそうなるだろう事を自身が動かして変えていく事、その責任を全て自身が負う事も出来ず、何か自身以外の者が責を負う結果となるを心底恐れ、こうした人間の在り様が複雑に絡み合ったこの世を恐れる。

 

時々自分がいなければ、この世はその存在しない分だけ円滑、或いはまともに動いて行くのではないかと思う時が有る。

存在の罪悪を思う時が有る。

 

しかし全ての生き物はこうして功罪を絡み合わせて存在し、あらゆる場に隙間なく、まるでパズルのようにはめ込まれて、欠けた破片が出ればその分他の者が時を置かず待っていたように隙間を埋める・・・。

 

後1週間、この期間さへ何とかなれば、あの巣のツバメ達は大空に飛び立つ事が出来る。

 

若い蛇の命を惜しんだ結果が1羽のヒナを殺し、他のヒナも危険に巻き込んでしまった。

せめて残りのヒナだけでも何とか飛び立たせてやらねばと思う・・・。

 

天意を動かした者は、それを背負わねばならないような、そんな気がする。


[本文は2016年7月7日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]