2021/07/16 17:15

時は永禄3年5月19日(1560年6月12日)、ところは桶狭間、京へ上洛せんと欲す源氏の流れを汲む由緒正しき今川義元の軍勢2万。

これを迎え撃つは尾張の大うつけこと、織田信長の軍勢2000。

 

さても結果は見えたりのこの戦、油断した今川義元は甲冑を脱ぎご休息、この時疾走する織田の精鋭2000旗、おしも降り出した激しい雨は織田の人馬の音をかき消して、なんと気が付けば憎っき義元はその眼前にて目を丸くしておるではないか・・・。

 

「おのれ義元、その首我ものとせん!」

一挙に打って出た織田信長、さしも総勢2万を誇る義元軍も、今はそこここに兵力を分散し、義元を守るは僅か5000旗にも及ばず。

 

所詮寄せ集めの兵は織田の鬼神にも似た精鋭にあっと言う間に蹴散らされ、輿を捨てて逃げる今川義元、「待て義元」と言って待つ馬鹿はいないが、やがて逃げる義元に追い付いたのは織田の服部一忠、服部の剣は吉本の腰を切りつけ、なおも義元は逃げ続けるが、そこへ追いついた毛利新助によって組み伏せられる。

 

「新助、義元の首をあげろ!」

義元とせめぎ合う毛利新助、これに追いついた織田信長、しかし信長はここで新助に迫り来る今川の雑兵達から新助を守るべく、自らが剣を取って今川の雑兵たちをバッタバッタと斬り倒して行く・・・。

 

日本で最初に「情報」の価値を正確に評価したのは織田信長だったと言われている。

 

信長は桶狭間の合戦でその軍功第1位に、今川義元が桶狭間にいると言う情報をつかんだ者を挙げており、実際に今川義元の首をあげた毛利新助を、軍功2位としたことが「信長公記」には記されている。

 

また信長はこの合戦で今川義元と一騎打ちになった毛利新助の補佐を行なっているが、このことも従来の「手柄は将軍や君主が為す」と言う日本的な価値観からすると大変合理的であり、なおかつ君主の有り様としても理に適ったものと言うことができるが、惜しむらくはこうした君主なり政治指導者が後世の日本には出現しなかった事である。

 

基本的に日本と言う国家は情報と言うものの重要性を軽く見ている。

軍は所詮将棋の駒のようなものであり、それを動かすためには作戦能力が必要になるが、この作戦と言う基本部分は「情報」によって組み立てられる。

 

しかし現実に今の日本を見ていると、相変わらず雑兵を押しのけて手柄を焦る指導者、政治家ばかりで、またそのなかで情報と呼ばれているいるものも、精々が内部資料の範囲を出ない程度のものでしかない。

しかし現実はどうか、中国の経済的台頭によって相対的にその力や権威を失ってきたアメリカをはじめとする欧米勢力、これによってそれまでは権威によって抑え込まれていた世界中の歪みが、今まさに一挙にそれを正そうとしている。

 

拡大しか方法を持たない中国、帝国主義時代に戻ろうとするかのようなロシアのプーチン、緊張する中東情勢と言う具合に、イラク戦争、アフガン干渉、更にはリーマンショックによってアメリカと言う価値観が壊れてしまった昨今、世界は新しい秩序を求めてさまよい始めている、いや正確にはそれぞれの国家が次は自国が新しい秩序となるべく、激しい攻防を始めつつある。

 

こうした状況の中で日本は今、全てが空白の状態にあり、特に情報、外交の部分では全く国際社会から無視され呆れられている現状は、地震の災害復興と共に一刻も早く是正されるべき緊急課題となっている。

 

そして外交と言うものの本質はその90%以上が「情報」と言うものであり、およそ世界的な勢力を目指す国家は、情報に対して多額の予算を組み、その情報収集に関しても手段を選んでいない。

 

なおかつ外交は何も外務省だけがそれに当事しているのではなく、国防機関、経済機関、場合によっては海外ボランティアや民間企業もそれぞれに外交交渉を行なっているが、多くの国ではこうした外交を通して得られた情報を統括する機関、これは非公開のものもあるが、そんな機関を持っていて、いわば総力をあげて情報収集を行なっている。

 

だが日本の外交は現在もそうだが、アメリカ国務省の日本支部と言うのが現状で、情報に関しても全てがアメリカに依存した形になっていて、今世界中の研究機関が指摘する、日本の一番大きな問題は「外交」と言う見解で一致している。

 

外交を担保するものは誠意や情熱ではない。

交渉では背後に力の担保が無ければ、交渉時に発せられる言葉は意味を持たない。

 

これまでの日本は「経済」と言う力と、アメリカと言う力を担保に交渉を行ってきたが、落ち込む経済、東北地方を急襲した地震災害によって大きく傾いた日本経済は、今後世界経済のリスクにこそなれ、経済と言う関係を持つに至る魅力を、言葉を担保する力を既に喪失している。

 

加えて先ごろ発表されたアメリカ国民の意識調査でも、これから先、アメリカに取ってのアジアのパートナーはどの国かとの問いに、60%のアメリカ人が「中国」を挙げていて、日本と答えた人は30%台に留まっている実情は、既に日本のことにまで手が回らないアメリカ政府の在り様と一致したものとなっている。

 

日本の外務省の組織は本省と在外公館からなり、本省は大臣官房などの他10の局と3の部で構成され、その職員数は2200人、在外公館には大使館、政府代表部、総領事館などが有るが、こちらの方の職員数は3300人となっている。

 

つまり日本の外交は5500人で維持されていると言う事であり、確かに外務省も一つの行政機関で有るから、その業務を遂行すると言う点では適正と言えるかも知れないが、これでは行政実務をこなすのに精一杯で、情報収集など全く出来ようはずも無く、内閣情報室と言う名ばかりの情報機関はあっても、せいぜいが政治家のゴシップを探るか、数人の北朝鮮工作員を追うのに手間取っているようでは、とても情報収集と言うレベルに及んでいない。

 

また基本的には力が担保となる外交は、外務省、財務省、国防機関、通商機関との連動が必要になるが、この点でも日本の外務省はこうした他の関連各省とのコミュニケーションツールが弱い。

 

加えて現在の民主党政権の無策ぶりであり、国際社会、取り分けアメリカやヨーロッパ諸国からは、現在の状態のまま推移した場合、遠からず日本は領土問題、食料エネルギー問題で行き詰まり、国際社会の不安定要因になると懸念されている。

 

日本は確かに東北の震災によって危機的な状況にある。

 

しかしこうした危機的状態を既に通り過ぎ、間違いなく危機の状況に有るのが日本の外交と言え、この空白は日本のみならず、世界的にも許される状態ではないことを、日本政府、日本人は自覚しておく必要があるだろう。

 

外交の基本はたった一つ、それは頻繁に会うこと、その機会を持つことだが、これは一般社会の人間関係に措いても同じことが言えようか・・・。


[本文は2011年6月27日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]