2022/04/24 15:50

飯を炊くのは意外に難しいものだ・・・。
特に毎日飯を炊き続けて、それで1年間全く失敗せずに家族が必要なだけ飯が食べれると言う事は、或る意味大変凄い事だと思う。

先日田んぼの畦の草刈りをしていた私は、もう日が傾きかけた頃になって白菜の苗を植えなければならなかった事を思い出し、慌てて草刈機を片付けると堆肥を撒いて畑を耕し、5本ほどの畝を作って肥料を入れながら50本の白菜を植えたが、終わって見ればもう6時を過ぎてしまっていて、これまた大急ぎで夕飯の支度にかかったが、そこでご飯を炊くのを忘れていた事に気がついた。

考えてみれば昼間の時点で父親と家内の分のご飯しか無くて、自分は蕎麦を食べて凌いだのが、そのおり後片付けをしながらご飯も炊いておこうかと考えながら、結局疲れて少し横になった為にこれを忘れてしまい、そのまま午後も草刈りに出てしまったのだった。

「しまった、やってしまった・・・」と思ったが、大急ぎで米を磨いで炊飯器のスイッチを入れたものの、こう言う時に限って中々ご飯は炊けないもので、7時を過ぎても一向に炊飯器のスイッチが上がらず、やがてやっとスイッチが上がった事から、かなり柔らかいままだったが、そのままご飯をすくい夕飯の食膳に盛り付けた。

父は右半身が動かなくなってから極端に気が短くなり、おまけについ最近肝臓癌と診断された事から、今週一週間は検査結果待ちで退院できたが、また来週には入院になる。

家内は心臓が悪くて手術しても中々回復せず、1ヶ月の内半分ほどは寝込んでいるが、こちらも最近階段を踏み外し足の指を骨折、歩けるようになるまでは1、2ヶ月かかる状態で、稲刈りが始まってきた。
一家4人の内2人が動けない状態で、高校生の娘がかろうじて少し手伝ってくれるが、他府県で生活している長男はこうした状況から、今年はお盆にすら帰って来なかった。

父は昔から頑固だったが、体が動かなくなってからその頑固さは特に激しくなり、朝食は午前5時30分、昼食は12時きっかり、夕食は6時30分、一汁三菜と言うサイクルに一切の妥協が無く、これに少しだけ私の忙しさを考え、待ってくれないかと言うと、「そんなに自分が邪魔なのか」とさめざめと泣いてしまう。

一昨年、いや昨年だったか、自分で命を絶った母を恨まないではないが、こうした時に思うことは母への恨みばかりではなく、その偉大さかも知れない。
母や祖母が生きていた頃、自分がご飯が食べたい時、一度だってご飯が無いと言う事が有っただろうかと考えると、その力の大きさに愕然とする。

「ああ、大したものだったんだな」つくづくそう思う。
畦の草を刈り、畑に作物を植え、それに水や肥料をやって、そして一度もご飯の炊き忘れが無かったのか・・・・。
自分は何も知らずに当たり前のように思っていたが、普通に暮らしを送る事は大変な事だったんだなと思う。

この夜炊いたご飯は結局「蒸らし」が足りず、翌々日の朝には水が回ってお粥のようになってしまい、この時も最初に確かめておけば良いものを、オカズが出来上がってからやっと保温ジャーの蓋を開けて気が付く始末。
朝4時から起きていて、ご飯の支度が間に合わない状態になり、そこでまた慌ててご飯を炊き、、このご飯も翌日の昼には水が回ってしまうと言う最悪の循環になった事から、父と家内には一食だけコンビニ弁当で我慢してもらい、やっと負の循環から抜け出し、落ち着いてご飯を炊いた。

田んぼの草刈もそうだが、僅かな事で忘れたり日が遅れると、あっと言う間に草は大きくなって刈るのに時間がかかるようになり、その事が次の草刈にも影響し、最後は大変な苦労をして草を刈る事になる。
だがこの事は如何なる仕事に措いても同じ事が言えるだろう。
そしてこうした事態にならないように、日々自分に芽生える僅かな怠惰を征する事は並大抵の事では無い。

水が回ってしまったご飯は傷んでいる訳では無かったので、私は家族と食事時間をずらし、家族にはしっかりしたご飯を食べさせるようにして、自分は水が回ってしまったご飯をお粥、洋風に言えばリゾットか・・・、そうして何とか食べている。
もしかしたら危ないかも知れないが、水飲み百姓の分際で米を棄てるのは畏れ多い。
それに家族の前で自分だけ失敗したご飯を食べているのは、何となく我慢を見せつけるようで、これも辛い・・・。

それゆえ、家族がみんな台所からいなくなったのを見計らって、玉子やほうれん草を入れたお粥を食べているのだが、そこへヒョンと猫が顔を出すものだから、「お前も特性リゾットを食べろ」と少し皿に取り分けると、その表情は「ふん、こんなものが食えるか」と言う感じで横を向いたままだ。

「全く、贅沢なやつだな・・・」
そう言いながら鰹節をリゾットにかけてやる。
すると猫はどこかで気が進まない感じで鰹節だけを食べ、そのままだとリゾットも食えと言われる事は分かっているのだろう、逃げるようにして台所から出ていってしまった。

全く猫も食わない失敗ご飯、余りご飯か・・・・。

だがもしかしたら、これが時々母が食べていたご飯の味だったのかも知れない・・・。


[本文は2013年9月14日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]