2022/06/27 19:13

氷の張った湖の先に目的地がある時、例えばその氷の厚さによって、体重57kgの人と80kgの人では目的地に達する方法の選択は異なる。

氷が60kgまでなら耐えられるが、それ以上の重みが加わると割れる場合、体重57kgの人はその氷の上を渡って、早く目的地に到達する事が最善の選択なるが、体重が80kgを超える人の場合、氷の上を渡らずに湖の周囲を迂回し目的地に到達する方策が最善となる。

だが現実には湖の氷の厚さはその縁に立っていたのでは解らず、従って体重何kgまでの人が安全に渡れるかは解らないので、もし時間的余裕が有るなら、湖の縁を迂回する事が最善の方策となるが、人間は中々これができない。

「もしかしたら大丈夫かも知れない」と思うからで、これは常に人間の状態と言うものが「追われている」状態にあるからで、これでも普通な訳だから、更に追われた状態の者がどう言う選択をするかと言うと、薄氷の上を体重80kgの人をして「もしかしたら行けるかも知れない」と渡らしめるのである。

そして人間が追われるのは何故か・・・。
それは自他を含めて「約束」をするからである。
中世以降のヨーロッパ社会が「自由」を「契約が存在していない状態」とした事は言い得て妙だった。

約束や契約は未来に措ける自分の拘束で有り、これが歴史年代が古ければその未来は現在からそう遠く離れていないが、現代社会の未来は現在からの乖離が大きく、遥か先の未来までも自分を縛ってしまっている。

また基本的に存在すると言う事は、そこに安定を求めることから、最終的には量的誤差は有っても正負を含めて何らかの蓄積が生じる。
つまり若い時には体重57kgだった者が今は80kgになっていて、しかもその事を忘れている場合が多い。

為に若い頃は渡れた事を思い、薄氷の上でも追われていればついつい「何とかなるかも知れない」と思うのであり、若ければ例え氷が割れても這い上がれるが、重く量を増した体では這い上がることもできずに溺れてしまう事になるのである。

問題の解決は実はこのように「環境」と「自身の「状況」に有る。
従って問題解決の結果が有るとしても、そこへ辿り着く方策は厳密には個人々々によって異なり、これは国家政策に措ても同じである。

周囲の状況、国際情勢、そして自身の有り様によって最善の選択はその時、その人によって異なるが、冒頭に出てきたように「氷の厚み」は解らず、自身が追われていればその体重の事すらも省みることがない。

それゆえ国家政策に措ける最も最善な策とは湖を迂回する道を辿る事になる訳で、もしこれを強行に湖を渡るとするなら、若さ、つまり体力が有る事、自身の体重が軽い事、未来に措ける約束の少ない事が条件になる。

しかし現政府を見る限りこの要諦を満たしてはいない。

敵の前に茫然自失となり、おろたえて指揮権を放棄した者が前総裁を破って、また総裁に返り咲く程混迷した体重の重い自民党が、宗教分離の精神に真っ向から対立している公明党を引きずり、年金や医療、少子高齢化問題と言う遥か未来までも縛られた状態で、しかも先へ行ってどれほど薄くなっているか予想もつかない氷のような国際情勢の上を歩いたらどうなるか、その結果は言うまでもない事だ。

準無制限金融緩和政策は確かに物が余っている状況には有効な政策では有る。
だがこれは現実には湖に張った氷の上を歩くに似て、「環境」が人を選ぶ方策であり、追われて湖の縁に辿り付いた体重100kgの巨漢が「何とかなるかも知れない」と、及び腰で氷の上を歩こうとしたらどうなるか、氷は必ず割れ、引き返そうとした時は冷たい水の中に引き込まれているだろう。

消費物価指数2%と言う数字、これは実は日本の国内情勢だけでは測れない状況に対して数値を設定しているのであって、先に厚みの解らない氷を2%厚くすると言っているようなものだ。

達成する為にはどれだけ円を印刷して良いかの事前目標が立たない無制限金融緩和政策であり、大きな漠然性の中に有る2%と言う数値によって、かろうじて準無制限と言う表現に行き着くような曖昧なものだ。

それに既に氷が割れ始めている。
食料品や石油、税金や公費負担の上昇率がもうハイパーインフレーション状態になってきていて、その上で生活関連以外の消費は落ち込み、こちらはデフレーションと言う状況は「氷が割れた状態」、スタグレーションの状態になってきている事を示している。

3年待てば、5年待てば何とかなると言っている間に労働賃金は下落し、生活必需品は制御不能に上昇、2年以内に国民生活はその多くが困難な状況を迎える事になるだろう。

日本銀行のように、世界各国の中央銀行が政府に対し独立した状態に有るのは、実は現在の日本のような状況に対し、未来に措ける健全性、つまり金融や経済は「安定」こそが全てなのであり、この状態を維持する為に独立性が付与されているのである。

ゆえ、太って借金を抱えたブタが追いかけられ、逃げ込んできた時には「少しはお前もものを考えろ」と追い返すのが役目であり、更に一歩譲ったとしても、中央銀行が政府の言いなりでは、詐欺師に紙幣の印刷を許しているも同じで、ここは詐欺師と国民生活の間に入り、調停して国民の詐欺被害を少なく抑える努力をしなければならない。

その意味で「白川方明」、現日本銀行総裁の任期限前辞職は、その立場で取ることができる最大限の努力を感じさせるものであり、現政府の「べらんめー」政策に対し、日本銀行の独立性と誇りを示した。

第24代日本銀行総裁「前川春雄」に勝るとも劣らぬ名総裁である。
私は白川方明総裁に「Mr.Bank of japan」と言う言葉を贈り、その名誉を讃える。


[本文は2013年2月6日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]